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日常
ー神というのは、同じような日々を送っている。
昨日、テロがどこかの国で起ころうが、今日はどこかの国で大飢饉が起こっている。自分勝手なようだが、神の毎日など差がない。
天気の神もそうだった。
「ちょっとー、イルビニーシャ」
気怠そうに側近を呼ぶ天気の神・アルノメテリ。先代の天気の神であり、アルノメテリの父はアルノメテリが3つの時に不死の病で息を引き取った。史上最速の交代で、上界がざわついた程だった。その心労と、夫を亡くしたショックから母もアルノメテリが4つの時に服毒自殺をした。アルノメテリは母の記憶がほぼない。
残酷な幼少期を経て、アルノメテリは7つの時に天気の神を継承した。
ひどくさみしいこともない。天気宮城にはたくさんの召使いがいる。感情がないわけでもないが、元々神の力を継承する者は感情が乏しかった。
「なんでございますか、神下様」
薄空色の羽衣を身に纏った、黒髪の女性が戸から顔を出した。家政の途中だったのか、細く骨ばった白い指先が雫で光っている。
第79827305代目天気の神の側近・イルビニーシャ。ありふれた平凡な下級市民の家系に生まれた彼女は、下級市民の時の仕事ぶりが認められ現在の地位についた、下剋上の人生。今は落ち着いて来ているが、唐突の昇格とあって、色目をつかったのではないか、お金を積んだのではないか、と、非難の声を浴びせるものも少なくなかった。それから守っていたのはアルノメテリだった。
「またあのさ、"こーひー"が飲みたいんだ」
アルノメテリは記憶に残る絶妙な苦味を辿りながら目の前でひれ伏す側近に頼んだ。下界の天気操作中に見つけた、"こーひー"。こーひーの話をしていたこども達は皆、口を揃えて「大人の味」と言っていた。
アルノメテリ、11歳。早く大人になりたい天気の神はこーひーを知った翌日、初めてそれを飲んだ。顔をしかめる程の苦味に口に含んだものを全て吐き出しそうになったが、飲むことによって新たな一歩が踏み出せたような気がした。
それからというもの、毎日のように同じような言葉で頼んでいる。
「駄目です、神下様。前もご説明した通り、こーひーに含まれる"かふぇいん"は神の力に影響してしまうのです」
イルビニーシャもまた、毎日のように同じような言葉で断っている。
ちぇ、またかふぇないんだかかふすいんの話だ。
よく分からない言葉の話に、むむ〜っと膨れたアルノメテリはそっぽを向いた。それに合わせて、虹色の髪もふありと揺れる。
「はーいはい、分かったよ…」
父上、こーひーが飲みたいです…。
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