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第2夜:SPACE R
「うっ……いた、いたい……」
その日の客は少し強引に際どい事を仕掛けてくる相手だった。
「紅羽は少し痛い方がいいだろう?」
そう言われ両方の乳首に付けられた器具の力が強まった。これで何度目だろうか。しつこく摘みあげられたり、特殊な器具で挟まれたりして既に紅羽の両方の乳首は赤く腫れ上がっていた。ジンジンするだけで1ミリも気持ちいいと思えない。
痛みには強い方だが、この客は最近しつこくこういう事をしたがる。その分金は詰んでくれるので断る理由は無いが、紅羽は少しうんざりしていた。
なかなか予約の取れない紅羽を週に2回、決まった曜日に指名してくるのだ。どれだけの対価を店に支払っているのか詳しくは知らないが、相当だと言う。客が払う支払いの20%が店に入り、80%が自分の給与として与えられるがその実、他に小遣いだと毎度のように万札を寄越してくる。羽振りが良いからこそ、こんな事に耐えているのだ。
「……ねぇ、もうそろそろ他も触って、お願い。」
上目遣いでねだるフリをするのはこの器具を早く外して欲しい。
「ん〜……しかたないねぇ。紅羽が言うなら、そうしてやろう。さ、脚を開いて全部僕にみせて。」
このクソオヤジ…そんな事を思いながらも、おずおずと照れた演技をしながら客の前で脚を開いた。
「今日もかわいいね。素敵だよ紅羽。」
「は、恥ずかしい……そんな、見ないで。」
これも演技。この客は紅羽が恥ずかしがる姿を見たくて堪らないのだ。
「……でも、嬉しい。」
照れ笑いなんか浮かべておけばこの客の機嫌は取れる。嫌な客との仕事は出来るだけ楽に終わるように仕向ける。
客の中でも善し悪しはやはりあって、紅羽が気に入ってる客からは金もそこそこに快楽を貪る。
今日の客は金の羽振りはいいけど、テクも何もあったもんじゃない。自分がいかに気持ちよくなれるか、気分よくいれるか……そればかりだった。
「はぁ、はぁ……紅羽……自分でおしり広げて見せて。」
荒い息が股間に当たるほど顔を近づけてくる。
「んっ……俺の全部……みて……」
客に向けてしりたぶをわり開いて見せれば更に息を荒らげ、しゃぶりついてきた。ただ舐め回すだけで何も感じない。見えない事をいいことに紅羽は虚無な顔で天井を見つめていた。
* * * * *
ようやく仕事を終え、いつものBARへと足を運んだ。
大通りから裏路地に曲がったところにひっそりとそのBARはある。看板は小さく入口も暗めの照明しかないので分からない人も多い。だが1歩足を踏み入れるとテーブルは殆ど男の客で埋まっていた。客たちは紅羽を見つけ、ザワつく。
「あれが……紅羽。」
「え、やば。めっちゃいいじゃん。」
「ここに来ると会えるってマジだったんだ……」
男たちは紅羽を見ながら口々にそう言った。ここに紅羽が出没し、男を値踏みしているという噂が広がり、いつしかこのBARはそういう客が増えた。半分はBARのマスター目当てで通う客だが、日によっては紅羽見たさの奴が多いこともある。
BARの名前は《SPACE R》。憩いの場や、リフレッシュできる場所、それぞれ自由に空間を使って欲しいからと言うのが由来らしい。Rは店長兼バーテンダーの玲から取ったものだって。
ここは酒やツマミも美味いし、雰囲気もいい。落ち着いた内装に間接照明。まとまりのある落ち着いた空間だ。
マスターの名前は玲。キレイめのオカマ。こう言った場所では珍しくもないが、その容姿は紅羽と並んでも引けを取らないほど美しかった。
「今日も男漁り?」
「今日はいいや。客の相手だけで疲れた。」
「アンタも大変よね」
「ま、手っ取り早く稼げるし、基本気持ちいいし?」
「そう?でも無理はしちゃダメよ」
「ハイハイ」
紅羽の事を結構気にかけてくれているようで、よく話を聞いてくれる玲がいるこのBARが紅羽のお気に入りの場所だ。
「で、今日も仕事だったの?」
「まぁね。は〜ぁ、今日もまたアイツだったんよね。」
いつもの頂戴と玲にオーダーをしてカウンターへ腰掛ける。
客の文句を聞いてもらいながらツマミで出されたナッツを摘み口へ放り込む。
「お疲れ様。はい、いつもの。」
出されたのはモヒートだ、ミントが爽やかで仕事終わりの気だるい体に染み渡る。玲の作る酒はとても美味い。その日のコンディションや気分を読み取れているかのように濃さが調節されて出てくる。
「今日もいるわよ、ほら。」
マスターの視線の先を見ると、今日も黙々と1人でグラスを傾けている男がいた。
「どんな子か気になってるでしょ?」
「まぁ……」
「それもそうよね、いつも1人だし声かけられても我関せずって感じだし。飲んでるものもいつも同じ。それに、顔も良いし、体も……細身に見えて意外といい体してるタイプよあれ。」
「ふーん。名前とか知ってんの?」
「ん〜……確か、要ちゃんって言ってたかしら。」
「要、ね」
要と言われた男の方を見ながらクイッと酒を煽る。何となくそっちを気にしながら酒を飲んでいる横から声をかけられる。
「ねぇ、紅羽だよな?」
「そうだけど、何?」
声の方を見るとロン毛をひとつに束ねいかにもチャラそうな服装をした若い男が立っていた。
「いやぁ〜噂の紅羽に夜のお世話してもらおうかなぁ、なんて。」
へらへら笑いながらしょうもない誘いをしてくる男に対して紅羽は鼻で笑う。
「はっ、誰がお前なんか。夜のお世話なんて冗談じゃない。もっとうまい誘い文句なかったの?」
「なっ……」
強気な紅羽の発言に男はイラついた顔を見せる。
「はいはい、止めなさい2人とも。ここはそういう所じゃ無いんです。これ以上やるなら出ていって頂戴。」
マスターが止めに入り、男は舌打ちをして店から出ていった。
「ったく、どうして俺があんな奴相手にすると思ったんだろ。不細工だし有り得ない。」
「こーら、そういうことは言うもんじゃないわよ。」
柔らかい口調で釘を刺され、ごめんと素直に紅羽は謝った。
要を横目に気にしつつ、客の愚痴を吐き出して世間話なんかもして、約2時間程BARに滞在した。
紅羽はスッキリしたと玲に礼を述べてから帰路に着いた。
紅羽と要との距離が近づくのはもう少し先の話。
……To be continued
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