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第3夜:動④
昔からあまり友人と呼べる人は紅羽には居なかった。友達と言えば会ってヤルだけのいわゆるセフレ。会話もろくにせず、ヤルだけ。
親、親戚、友達……誰と居ても居心地の悪い思い出がほとんどだ。
「どうした?まだやっぱ体調悪い?」
紅羽はぼーっと考え込んで歩いていたようで、隣を歩く要が心配そうに見ていた。
「え、あぁ。大丈夫。ごめん、考え事してた。」
「なら、いいんだけど。えっと、紅羽だっけ?」
「うん。あ、紅羽は源氏名ね。本名は眞生。西嶋真生っていうの。」
「真生ね。」
さっき連絡先を交換したが、あまり本名を知られたくないから登録は紅羽で統一をしている。要は歩きながら素早く登録名を変更した。
ホテルからしばらく歩いたくらいで雨が降り始めた。
傘は持っていなかったが、あと数分もすれば紅羽の家だ。2人は雨の中を小走りで紅羽の家に急いだ。
割と雨に濡れてしまったので家に着いてすぐ要を浴室へと案内した。
10分程で雨を流し温まった要が浴室から出てくる。
暑いといって、上半身は何も着ておらず紅羽はその身体を思わず凝視してしまった。
「ん?」
「あ、ごめん。体つき、かっこいいなって思って。なんかやってる?」
「筋トレくらいかな。あぁ、でも昔バスケやってた。」
要は確かに身長も高めでスラリと長い手足をしていた。
「ふーん。似合いそう。」
新しく要の事を知れて紅羽はなんだか嬉しく思えた。
「似合うとかそういうもん?」
「うん。あ、ごめんテキトーに座ってて。俺もシャワーしてくる。冷蔵庫に飲み物とかあるし、飲んでていいよ。」
酒とかもあるし、と付け足して紅羽はシャワー室へ消えていった。
紅羽はシャワーを浴びながら何故こんなに要の事が気になるのか、要の事が知れて嬉しいのか考えた。
「ん〜わかんないなぁ。でも、楽しい気がする。玲さんと喋ってるのとはまた違う感じだけど……。」
まだこの感情が何なのか、どうしてそう思うのかいくら考えても答えは出なかった。それは単純に紅羽の経験不足だからだ。一人で居ることに慣れてしまったせいもあり何となくソワソワする。そんな浮き足立つ気持ちを落ち着かせようと、少しだけ熱いシャワーを頭から被った。
「すげぇ家。1人で暮らしてんのか?」
一人暮らしにしては、広い間取り。駅からも近く防犯などもしっかりしていたこの家は恐らくそれなりの家賃だろう。ホストってすげぇな、と思いながら要はソファに腰掛けた。
割と殺風景なその部屋は、寂しくも見えるが紅羽のイメージとピッタリだった。
ふと、テーブルを見ると何やら色々な書類が置いてあり、その中の1枚が目に止まった。内容を見るつもりはなかったが、生年月日や住所などの個人情報が記載されているのがたまたま目に止まった。
「ん?あれ……?」
生年月日を見た要は一瞬目を疑った。そこには紅羽が先程言っていた年齢とは違う年齢が書かれていたのだ。
「18……?」
まさかの未成年だった。しかもまだ誕生日が来たばかり。高校生の年代だ。未成年がホストをしているなんて言う事は大問題。何故紅羽はそんな事をしているのか、要は理由が気になった。
18でこの家におそらく、一人暮らし。学校に通っているような感じもしない。
むしろ、そこらの学生よりも頭のキレは良さそうだし、大人なイメージだ。
「金のため……だよなぁ、たぶん。」
考えが声に出てしまい、ハッと気がついた。
その時ちょうど紅羽が出てきた。
「ふぅ。あっつー。」
要は急いで書類を元に戻し、携帯を触るふりをした。
この事を聞くべきか、どうするか要は迷った。
「ねぇ、コーヒーでいい?それとも酒?」
「あ、コーヒーで。ブラックで頼む。」
「りょーかい。」
キッチンからサーバーでコーヒーを落としてる音が聞こえている。
「紅羽?真生?」
「うん?どっちでもいいよ。」
「真生って一人暮らし?」
「そうだよ。」
「ホストってやっぱ凄いんだな。こんな凄いとこに住めるなんて。」
「まぁ、な。」
なんとなく、先程見てしまった年齢が気になりつつも聞き出せずに当たり障りのない話をして誤魔化す。
「はい、コーヒー。」
「ありがとう。」
紅羽は自然と要の横に座り、コーヒーをゆっくりと啜った。
「そういえば。」
「ん?」
「BARの近くに居たけど、よく行くのか?」
「あー。たまにね。あそこのご飯美味しいから。」
「なるほどな。俺もよく行くんだけど、美味いよな。」
「知ってる。よく見るもん。」
紅羽は遠くからいつも端の席に座っている要をよく見ていた、と言った。
それを聞いて要はそう言えば何かたまに視線を感じる事があったなと思い出し、真生だったのかと納得した。
「気づいてたの?」
「誰かはわかんなかったけど、なんとなくな。」
「ふーん。そっか、なら話が早い。」
「え?」
「俺さ、要さんとお近づきになりたくて。」
キュッとソファでの要との距離を少しずつ縮めた。
「友達にってことか?」
「んーまぁそんなところ。」
何となく間延びした紅羽の返事が気になるが要は返事を返した。
「まぁ、別にいいけど。」
「やったね。とりあえず今度あそこでご飯奢る。今日のお礼。ね?」
紅羽は無邪気に笑って要の腕に抱きついた。
「あ、あぁ。」
先程からボディタッチが多く感じるが、それが紅羽のコミュニケーションのやり方なのかと思いながら少し冷めたコーヒーを啜った。
年齢の話はまぁまた今度でいいか、と後回しにして今は美味いコーヒーを楽しんだ。
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