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第4夜:出会い(side,要)
ふらりと立ち寄ったBAR。何となく雰囲気が良くて、導かれる様に店内へと足を踏み入れた。
「あら、いらっしゃい。初めての方?」
綺麗な人がにこやかに迎え入れてくれる。
「はい。」
「空いてるところどうぞ。メニュー今持ってくわね。」
よく通る声で案内してもらい、店内を見渡す。カウンターはほぼ満席、テーブルもそれなりに埋まっていたので、俺は端の席に座る事にした。
席に座ると丁度メニューとおしぼりをさっき店員が持ってきてくれる。
「どうぞ。」
「ありがとう……」
ざっとメニューに目を通すとその種類の多さに驚いた。
「気になるのかあるかしら?」
「あ、えっと……オススメとかは?」
選びきれないと店員の人に尋ねる。
「んー、そうね。アタシがアナタをイメージして作る、なんて言うのはどうかしら?」
「そんなことも出来るんですか。」
「えぇ。」
「じゃぁ、お願いします。」
考えるのも面倒だとその申し出を受け入れることにした。
若そうに見えるその店員はどうやらバーテンダーらしく、さっきから色んな酒を作っていた。シェイカーを振る姿は美しく、妖艶。
誰もがその動きに見惚れていた。
俺もそのうちの一人でぼんやりとバーテンダーの動きを眺めている。カランカランとドアに設置されたベルが綺麗な音色を鳴らす。
音の方を見るとそこには中性的な顔立ちの青年の姿。赤い髪が特徴的で照明が当たるとキラキラ光っていた。思わず見入ってしまう。
「あらぁ、くーちゃん。いらっしゃい。」
バーテンダーは明るく声をかける。
「玲さん、こんばんは。空いてる?」
「えぇ、大丈夫よ。今片付けるからちょっとだけ待っててくれるかしら。」
「構わないよ。」
くーちゃんと呼ばれた青年は入口の隣に立ち言われた通り待っていた。
「はい、くーちゃんお待たせ。メニュー見ててちょうだい。アタシこれ置いてくるから。」
そう言ってバーテンダーは青みがかったカクテルを俺の方へと運んできた。
「はい、お待たせ。ブルーミングシティよ。後これは始めてきた子へのサービス。」
俺の目の前に置かれたのは青が綺麗なカクテルと何やらカルパッチョのようなもの。
「あの、これは?」
「ふふ、これはね、大根のカルパッチョよ。アタシの自信作なの。良かったら食べてみて。」
見た目華やかで大根の白とアンチョビとミニトマトバジルと粒マスタードを使ったようなソースがかかっていた。
「それじゃ、ごゆっくり。」
パチンとウインクを決めてバーカウンターに戻っていく。
まずは1口。大根のカルパッチョを食べてみる。酸味と野菜の甘みが程よくマスタードが効いていてとても美味しかった。
すぐに酒を口に含むとこれもまた芳醇な味わいの中にコクとキレがあってとても好みの味で食に夢中になっていると、カウンターの方から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「もう玲さんったらマジ面白い!」
「そんな事ないわよ〜!この前のくーちゃんには適わないわ。」
「あっひどい!」
どうやらバーテンダーの名前は玲と言うらしい。顔に似合った名前だ。
そして紅羽という青年。さっき目を奪われた事もあってなんとなく気にしてしまう。世の中、あんな綺麗な子がいるのかと……。
しかし、聞こえてきた話は顔には似つかわしくないものだった。
「てかね、聞いて玲さん!昨日の客!」
「なぁに?」
「もう、サイテー。ずっと乳首ばっかで、いざ入れたら1分持たないの。なぁんも気持ちよくなくてさぁ。」
ちくび?入れたら?……明らかにそっちの話だな。気になるのでトイレに立つついでに傍によってみる。
「まじ最悪。なのに、延長とかさダルすぎて次詰まってるからって断った。この天下の紅羽様があんな粗チンで満足出来るわけないのにさぁ。」
紅羽、それがこの子の名前か。それにしても、この内容は……。
俺はそこまで聞いて自分の席へと戻る。
それから暫く紅羽という青年は愚痴をこぼし帰っていった。
俺もその後暫くしてから店をあとにした。
自宅に戻りパソコンで『紅羽』について検索したが、出てくるのはキャバクラやAVの事ばかり。いや、何か情報が出てきたところでどうこうという訳では無い。
「紅羽……か。」
俺はパソコンを消しながら、その名前を呟いた。
なんとなく気になる紅羽。それがなぜだか自分でもよく分からない。
暫くの間、紅羽の顔がちらついて離れなかった。
俺はまた会えるのかと思い、何度かBARに通ったが紅羽に会うことはなかった。
居心地の良さもあってか、紅羽抜きで通うようになり、玲さんとも打ち解けていった。
そんなある日、いつも通りBARに向かう途中であの紅羽を見つけた。
紅羽は見知らぬ男に手を引かれていたが、かなり抵抗し声も大きくエスカレートしていた。
「誰かーー!!助けてーーー!!」
「っち、うるせぇ!」
パシンと音がして、男が紅羽の頬をビンタしたところで、堪らず俺はその2人に声をかけた。
「おい。何してんだ。」
それが、俺と紅羽の関係の始まりだった。
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