第5夜:紅羽の過去①

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第5夜:紅羽の過去①

「あんまり、っていうか全然楽しい話じゃないけど……」 「うん、聞かせて。紅羽の事知りたいから。」 どんな話でもいいと要は付け足して言った。それを聞いて紅羽は少しだけ安心したようで、ゆっくりと話を始めた。 * * * * * 物心着いた頃には、とっくに母親に捨てられていた。 他に男を作って出て行った。自分を連れて行ってと縋り付けば蹴飛ばさた。 出ていく前も散々男を連れ込み、真生(紅羽)がいるにも関わらず放置。幼い真生の目の前で何度も体を重ねては女を見せびらかしていた。 今でも母親のオンナの姿が目に焼き付き、あの嬌声すらも鮮明に思い出してしまうのはきっとそのせいだ。 そんな母親を父親は何も言わず見て見ぬふりだった。興味が無いと言うよりは強く出れなかったらしい。 それだけならまだしも、母親が男を連れ込んだ日は必ずと言っていいほど真生に手を挙げていた。母親には言えない分を幼い真生にぶつけていたのだ。 抵抗すれば更に酷い目に遭う。それは幼心にも分かっていて・・・ただ、ただ父親の気が紛れるのを待つしかなかった。 そして、母親は遂に家を出行った。真生が小学2年生の時だった。もちろん、父親は怒り狂い真生を攻撃した。 「お前が全部悪い。」 何もしていないのにそう言われ、身体を痛めつけられた。身体から痛々しい傷が消えることは無かった。周りも助けてくれるような大人は居なかったし、助けを求める事も出来なかった。 実の親に愛を与えられず育ち、愛とはなんなのか、愛情とはなんなのか分からなかった。 学校でも挨拶を交わす程度はするが、友達と呼べるような人は一人もいなかった。友達付き合いの仕方もわからないし、遊びたくても父親に止められる。 父親は門限を設け厳しくした。破ればまた暴力を振るう。そして決まってこう言った。 「母親が出ていったなんて周りに知られてみろ、俺は大恥をかくんだ。」と。 そんな事を毎日のように言われ続け、暴力を受ける。 たまに父親が仕事で遅くなる日や出張で家を空ける時はほっとした。食事などは好きにしろとお金をほんの少し幾らか置いてあったのでその部分での心配はなかった。自然と料理は覚えたし、苦ではなかった。むしろ1人の方が気楽に過ごせた。 中学に上がっても真生の背はあまり伸びず、顔はどんどん母親に似ていく気がした。父親と顔を合わせると舌打し嫌な顔をされる事があった。体力もついて、年齢的な部分から暴力を振るわれる事は以前より減ったが、相変わらず育児は放棄。仕事はちゃんとしているし近所の人が尋ねてくれば外ズラだけは良く対応していたし、真生を外に連れ出しては可愛がり育てていると言わんばかりに世話を焼いていた。 最近では母親が居なくなったと知られてしまうことがあったが、「母親は死別した」ということで納まった。そして、世間では母親が居なくても家事や育児をしっかりこなし、近所づきあいもしっかりしている良いお父さんだと評判が良かった。 その面子の為だけに真生を利用する。それが真生の父親。母親は連絡を寄越すこは1度もなかった。 「はぁ。」 真生はそんな父親に呆れ果て、ため息をついた。この頃になると父親はほぼ無干渉状態になった。だから気を使う事は無かったが、家の中でも学校でも自分の居場所を感じる事はなかった。 だが時折、家の中で何だか嫌な視線を感じることがあった。特に着替えをしている時……決まって父親は真生を見ていた。舐め回すような視線で、おかしいと感じながらも別に何をされた訳では無いため、我慢していた。 そんなある日……あってはならない事が起きた。
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