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 仁藤の(意図しない)病気の告白は業界で反響を呼んだ。  今まで海外で主に活動していた、それもプロフィールをほとんど公開してない画家の知られざる一面はささやかなニュースになったほどだ。  元々抽象的な作風であったことから、今まで発表した絵に対する様々な考察がネットを飛び交った。  これは苦しみを表しているだとかなんとか中には面白おかしく祭り上げるような記事も見かけては、恵は自分がプロハッカーだったらこいつらぜんぶ住所を特定してやるのに、と怒ってからすぐに元凶は自分なのだと再確認して虚しくなるというループをひらすら繰り返した。  季節は冬を越えたが春と呼ぶにはまだ早い。  正直気分は卒論どころじゃなく、締め切り日ぎりぎりまでかかってしまった。どうにか仕上げ、急いでデッドラインの五時前に教授室に持って行った。  受け取ると中井教授は「おつかれさまでしたね」と声をかけてくれる。  その響きがいつも通り穏やかで、不覚にも泣きたくなってしまった。 「中井教授…俺…」 「ん? どうしました?」  おそらく卒論の緊張が一気に解けたのと、十月から一件を誰にも話さずため込んでいたのと両方で、情けなくも膝から崩れ落ちてしまった。 「仁藤さんに、…とんでもないことをしてしまって…」 「とんでもないこと?」 「仁藤さんの個展の告白…あれ、担当の人にリークしたの、俺なんです。知らなかったとはいえ、了解を得ずに何気ない話に病名を出してしまって…。そしたらあんな風に使われてテレビなんかで放送までされちゃって…俺は、仁藤さんの人生を変えてしまった。仁藤さんの人格も仕事も…全てを踏みにじってしまったんです…」 「…それで、このところゼミも来なかったり不安定だったのかい?」 「すみません…。だから仁藤さんにもそれ以来会えてなくて…当たり前ですよね、殺されてもしょうがないくらいのこと、しちゃったんだから。中井教授にも本当にすみませんでした」 「なんで僕?」 「仁藤さんの側にいるとか言っておきながら」 「だってさ」  その言葉は恵ではなく、なぜか後ろに向かっていた。  恵はまさか、と顔を上げる。 「土下座して謝罪しろ」  見慣れた人物が、薄く開いたドアの前に仁王立ちしていた。 「仁藤さん…」  もう絶対会えなくて、そして死ぬほど会いたかった人物は恵の目の前に立ちはだかる。 「じゃ、話し合いは当人同士でごゆっくりー」  すれ違いで中井教授が扉を閉めた。
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