幻の長編小説

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幻の長編小説

編集者の名前は、佐山と言うらしい。 泉さんに電話をかけて、本当に彼は大丈夫なのかと聞いてみた。 ---彼なりの距離の詰め方ですよ。 ---きっと高山先生も彼の良さが分かりますよ。 ---それでは。 なんとも端的に済まされる。担当じゃなくなればそんなものなのだろうか。期待の大型新人だからと敏腕編集者をつけてくれた出版社。 恩義を感じて、ここでしか書いていない。 本日発売された文芸誌をめくる。 この前、彼に手渡した作品が初掲載されている。 ん? どこにあるのだろう。 無いな。 いや、そんなはずは。 ない、ない、ない!! 急いで、出版社に電話をする。 先日は急いでいて、結局連絡先も知らないんだ、佐山ぁぁぁ!! 「はいはい、替わりました佐山でーす」 「どうなってるんだ」 「あ、やっと気付きました?」 遅くないですか?とでも言いたげな素っ頓狂な声音。 「これは僕への嫌がらせか?」 「違いますよ。せっかくこの佐山が担当になったからには」 「とりあえず、来い」 「え、今からで」「つべこべ言わずに来いよ」 「正座でもした方が良いですかね」 「何君殴られたいの」 「今時、暴力に訴えるのはいかがなものかと」 相手の悪びれる様子の無さに落胆した。とりあえず自分も腰を下ろすとする。 「君の考えを聞かせてくれないか。あの作品の何がいけなかったんだ。編集者として駄目だと思ったのなら、どう駄目なのか言ってほしかったな」 「・・・正直言って、よくできているんです」 「それならなぜ」 「できすぎなんですよ。そんなもの今の時代要りません」 ---要りません ---要りません 駄目だ。衝撃が強すぎて反芻してしまった。 「今は先生の作品の評価の高さに乗っかろうと、文体も内容ですらも丸パクリしてるかのような小説がたくさん出てるんですよ?先生は知らないだろうけど、そういう小説のアニメ化もされていて、いまや、高山創ですらこのブームに便乗しているなんて言われてるんですよ!?先生が先駆者なのに!!」 「全く知らなかった。他人の作品は読まないからな。ただ、流行っているなら良いんじゃないか?」 「ほんと呆れた世間知らずですね。ブームってどうなるか知ってます?オワコンってやつになるんですよ!そのオワコンって言葉すらも既に死語かもしれませんがっ!」 「おわ、おわ?」 「オワコンです。終わってるコンテンツです。消費され尽くして、飽きられて、捨てられるんですよ」 佐山が更に大声をあげる。 「先生はブームを牽引する力がある。先生の持ち味はそう、笑いです」
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