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平凡な日々のおわり
僕の名前は高山創。
純文学小説を書いて暮らしています。
思い返せば、4歳の時には既にロードオブなんちゃらとか、ナルニアなんちゃらとかゲド(割愛)を愛読し、読み書きには何の苦労もせず、むしろ非凡な才能を発揮してきました。
自分で言うのもおこがましいですが、17歳で新人賞に応募すれば、翌年には芥川賞にノミネートされ、審査員満場一致の最優秀賞を受賞した次第です。
ここまでくれば、謙遜するのも失礼ってものではないでしょうか。
そう・・・あいつが現れるまでは。
---高山先生、申し訳ないのですが、この度異動に伴い、先生の担当を降りることになりました。
---いえいえ、ご心配なさらず。次の担当は新人ではありますが、私が厳しく指導した後輩でして。贔屓目かもしれませんが、彼はなかなか編集者としての才能があるのです。
---これからも活躍を期待していますね。
僕の大好きだった担当の泉さんは、かねてから希望していた週刊誌に配属された。しかも、編集長のポスト。
立派な栄転である。彼女の稀なる志については、また時間がある時にお話ししましょう。
あと、言っておくけれど、大好きの好きはLoveなのかLikeなのかなどという、下世話なことは聞かないでください。
それらの感情を自覚する前に離れることになってしまったのだから。
そんな僕もデビュー5年目の節目の年である。そんな時に新人編集者がつくとは、逆に育ててやってくれと遠回しに頼まれているのだろうか。
ノートPCを目の前に、椅子をくるくるとしていたら、少し目が回ってしまった。
「何してるんですか」
目が回ったんだよ。
「おーい、大丈夫ですかー?」
君、静かにしてくれないか。
「あーのー!聞こえてますかー!?」
「うっせぇんだよおおおおお」
え、
この人だれ。
僕の怒声に尻餅をついた、どっから見たってパリピがスーツ着てる青年。
「僕の書斎で何してる」
「何って原稿取りに来たんですよ。っつ、いてて」
悪夢だ。
やはりだ。
新しい担当じゃないか!
勝手に人の家にズカズカと上り込んでいる!僕の応答がなかったのかもしれないが。不用心にも僕が鍵をかけてなかったのかもしれないが、百歩譲ってもだ!
「言いたいことはたくさんあるが、君も忙しいだろう」
「そうなんです。先生が遅筆なせいで、印刷所に無理言ってるんで」
ちっ。
「ほら。これだよ。くれぐれも頼む。紛失したりしないでくれよ」
「そういう凡ミスはしたことないんで。任せてください!」
とりあえず、名前も聞けぬまま、新しい担当は帰って行った。
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