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人生終わったら始まった件
オタクというほどオタクではなかった。
萌え系のアニメやギャルゲーよりも、少女漫画原作のアニメや乙女ゲームが大好きだった。
腐男子っていうわけでもなかった。
隠キャなのに熱量のあるオタクじゃないから、クラスでは生存権が無かった。
ただの冴えないやつとして煙たがられていた。
スマホアプリでリリースされた乙女ゲームをプレイしながら下校するのが毎日の楽しみ。
アオハル チューニング
運営のネーミングセンスにこそ目を瞑れば、今年の傑作ゲームにランクインするはず。
忙しいからこそトキメキを補充したい働く女性をターゲットにしているだけあって、イベントを走りまくらないといけないわけでもない、ガチャ的な課金要素もほどほど、なによりピュアピュアな青春を謳歌できるという、王道展開!
そんな僕は社会人でも女性でもないけれど、こういう青春をしてみたかったなと憧れる気持ちは同じだと思っている。
「うわぁぁぁぁ」
突然、目の前が目まぐるしく変化していった。
気づいたら青空が見えていた。スマホを覗き込んでいたはずなのに。
「君、大丈夫か?」
「誰か、救急車呼んだか?」
「きゃぁぁぁ」
「頭から血が出てる!」
なになに、下手に動かさない方が良いって?視界もぼやけるし、耳も遠くなってきた。まるで、新作ゲームをクリアしようとして徹夜してしまった時みたいだ。
そっか。
歩きスマホが危険ってこのことなんだ。
あーあ、人物設定的に微妙だったから、乙女ゲーが好きだって、結局同級生の誰にも言えなかったな。
お母さんは知ってたかな。お葬式で、あの子はほんとに乙女ゲームが好きだったとかって話しちゃうのかな。やめてよ、ちょっと恥ずかしいよ。
あーあ、あと1時間待てば無償でイベント発生させられたのになぁ。
王道の攻略対象ってどんな感じだったんだろう。王子様イケメンだったら良いな。僕的にはツンデレはプレイヤー側の選択肢にあってほしいんだ。
小鳥のさえずりが聞こえる。
瞼を閉じていても強く感じる陽光。
僕はまだ救急車で運ばれていないのか。
遅すぎないか、これじゃ本当に助からないよ。
ゆっくり目を開けるといつもより近くに空がある。
ここはどこだろう。
もしかして、信じてなかったけど、あの世ってやつかなぁ。
って、え?なにここ!
目の前には学園らしき建物。大きな門の前に寝転がっていたようだ。
「あの、どうかされましたか」
恥ずかしそうに僕を覗き込んできたのは見覚えのあるあの子。
そう、この子は僕だ。
乙女ゲームなのに珍しくアバターを作った愛着のある主人公。
「あまね・・・」
「え、どうして私の名前を知ってるんですか」
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