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まだ見つかりませんか
人間誰しも落とし物を毎日続けている。
宝の箱の鍵穴だったり、
瑠璃は大事な鍵を、今まさに探している。
犯人は相棒のチワワのシルバーに、ちがいない。
メガネもお気に入りのハンドクリームも隠してしまう。
プンプン怒りながら探していた。
写真が数枚見つかった。
家族で旅行に行ったときの写真。
「楽しかったな~じーじも皆写ってる」
この頃に戻ってもう一度大好きなじーじに、色んな話がしたい。
居なくなって寂しいと話をしたい。
お墓参りは暑いとか、法事は楽しくないとか、じーじが居なくなってばーばが寂しそうだとか、
クラスの席替えが嫌だったとか、亜美ちゃんが約束を忘れた話しもしたい。
でも、本当にぎゅうって抱き締められたら何も言葉は出てこない。
きっと嬉しくて泣いてしまう。
言葉はいつも落とし物。
言えなかった時には無くしてしまって探しても出てこない。
言葉はいつだって気まぐれだから、言いたかった本当の気持ちなんて落としてしまうんだ。
ああ言えば良かったかな?こう言えば良かったかな?
人は言葉を何度も落としてしまうんだ。
何年かたって、見つけることもできるかもしれない。
何十年もたって言葉が違う意味に変わってしまうことも、そして忘れ物の部屋にドンドンたまっていくのかな。
爆発するときが来るのかもしれない。
落としたのは自分だから、
でも落とした言葉は正確には見つからない。
時間が変わって、多分見つけられても気持ちが重なっていない。
誰も彼も毎日毎日言葉を忘れて、落として
きっと山ノ谷奥にしずんでいくのかもしれない。
それを毎日モグモグ食べて、森の木々が酸素を出して私たちに呼吸を分けてくれているのかもしれない。
ため息ついて、深呼吸して
頑張って話せなかった言葉は忘れ物。
もう決して伝わることはない。
思い隠している言葉もある。あの頃は悪くしか聞こえなかった言葉も、
今思い返せば優しさがあった。
一文字違うだけで、言葉は違うものになってしまう。
瑠璃が生まれてもうすぐ18年になる。
瑠璃を育ててくれた曾祖父が昨年無くなり、
私の父が、亡くなって瑠璃がお腹にやってきた。
空っぽの卵子しか、出来なかったママの体。
三回に一度ぐらいは中身が入ってるらしい。
動きの遅いパパの精子。一人徒競走なのに、ゴールできない的な。
ようやくゴールして、お腹に赤ちゃんが出来たんだけどね。
うまく育たなくて
鼓動は止まってた。
産まれていればね瑠璃のお兄ちゃん。
父にも会えただろうに。
体の弱かった父、仕事場で嫌な思いをしていたと思う。
入院生活が多かった父。
頑張って人一倍働いていたにちがいない。
一人では出来ない作業を何も言わずにやっていたから。
部署が変わると三人の人が仕事を引き継いだ。
身体が弱くて休みがちで、仕事が出来る人と
仕事は出来ないのに毎日仕事にくる人。
後者が立派なのは言うまでもない。
ただ悔しいと言葉を忘れていっているよ。
生きにくい世の中だったり、言い訳できる人間が偉いんじゃない。
本当は皆、本当の言葉を押し殺して忘れていっているよ。
忘れた言葉だけが置き去りになり、言葉の海が深くなっていく。
長く生きていたら、もぐってあの時の自分に会いに行けるのかな?
人は毎日、言葉を忘れ物している。
お店に傘を忘れて、取りに行って出会った人もいる。
そして何かを思い出して忘れた言葉を片言に話し出したり?
忘れてもね。
何かに変われば嬉しい落し物になるんじゃないかな?
瑠璃が探している宝箱には沢山のママからの手紙が入っている。
毎日のお弁当に付いている、可愛くもないただの黄色の付箋紙。
ママは沢山文字が書ける方がよいでしょって、
ベリーは、はじめて見たとき文句を言ったのだ。可愛くないって。正方形の100枚入の黄色の付箋108円。
ぎゅうぎゅうの毎日のママからの手紙。
これを読まないとママを忘れてしまう。
ママは忘れることが人の素晴らしさよと。
毎日天気の話や、友達との相談の返事を書いてくれていた。漢字間違い探しが楽しかった。
「この箱の鍵を見つけてママを探して、もう一度ママの声が聞きたいの!ママを忘れてしまうから
」
人生は落とし物の毎日、忘れ物の毎日。
落としたものを、探さなくても時間が君の悲しみも喜びも混ぜてソフトクリームにしてくれるよ。
もう落とし物は君の心の中に隠されているよ。いつか、必要なときに開かれる宝箱みたいに。
どっかーんと、あふれでてくるよ。
落し物は、もう見つかりましたか?
誰もが、落としていった言葉、言わなかった言葉、言えなかった言葉、無くしてしまった言葉
それら全てが私たちの足どりなのだから、
もう取り返せない、自分だけの宝物。
だから今日も右足を前に、左足を後ろにって。
ストレッチしたら、
心が軽くなるのかも。
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