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ヴァーミリオン
玲さんが死んでから、数日が経った。
この町、通称クルーエルタウンは静かになった。
つまり、“殺し合い”がなくなった。しかし、死体は山積み状態。
刺激臭が鼻をつく。
私と羅信は、なんとなく道を進むしかなかった。その間、私と羅信はほとんど無言。
ただただ歩いた。
それからまた数日。
私と羅信は、あることに気づく。
「……もしかして」
「また……?」
クルーエルタウンを出て来たところにあったのは、クルーエルタウンと同じ光景だった。
死体が転がっている。
ということは、“殺し合い”だろう。
ここにも、敵がいると?
この世界はどこへ行っても支配されているのか?
「羅信……」
「ああ……この辺りにも有力者はいる。」
「やっぱり、そうだよね。」
現在地であるここは、とても山がちである。
道を進むのにでさえ、体力を使う。
ここで敵と戦うのは困難かもしれない。
「おい」
え……
背後から声がした。
女の声だ。
嘘、もう敵か?
私は素早く後ろを向き、銃を構えた。
そこに立っていたのは、私たちと同じくらいの女の子だった。
「お前ら、渡月か? 牙狼か?」
「どっちでもねぇよ。」
女の子の質問に対し、羅信が答えた。
「本当か? じゃあお前ら、何をしている?」
「俺らは、その渡月と牙狼の有力者を探しているんだよ!」
「そう、奇遇じゃないか。」
あ……
今の。
『そうなのね! 奇遇ね。』
玲さんも同じようなこと、言ってたな。
少し、思い出してしまった。
「私は羽芺だ。私の方が、お前らより知識はあると思う。だから、一緒に戦ってやるよ。」
羽芺は言った。
この子、独特な子だな。ツンツン、サバサバしている。
私と羅信もそれぞれ名前を名乗った。
「じゃあ、さっそくだけど。歩きながら説明するから。」
羽芺の綺麗な白髪が揺れる。羽芺は男っぽい感じだが、意外なことにツインテールである。
「説明しっかり聞いてなさいよ。複雑だから。ああ、そうだ。お前ら敵についてどこまで知っている?」
「渡月家には、上下関係があることは知っている。あと、術を使うことも。」
玲さんに教えてもらったことを、羅信が答えた。
「そうなんだな。これからもっと、詳しく話そう。
最近、“殺し合い”が拡大している。元々、有力者は、1箇所に固まっていたんだ。でも、最近では違うみたいで、ひとりひとりばらばらなところにいる。しかもそれが、渡月も牙狼も色んなところに分布してるから、どんどん拡大していっているんだよ。そして、どうして これだけ多くの民が人を殺しているのか、それにも原因があるんだ。それが、渡月側の朙と驟だ。あの2人は、戦闘能力が非常に低い。だから、渡月の上の者から奴隷扱い。朙と驟に命令し、“殺し合い”を色んな地域に範囲を広げている。朙と驟も、渡月の頭である響花水蓮には叶わないのだろう。朙と驟は、弱いが賢い。あの二人が地味に厄介な存在なんだ。二人を見つけたら、すぐに殺せ。
そしてここ、ヴァーミリオンという地域。“ヴァーミリオン”は通称だ。最近、そう呼ばれるようになった。ヴァーミリオンの意味は“朱色” 血色を表すらしい。クルーエルタウン(残酷な町)の時と同じように、死者数が尋常じゃないのだろう。ここの頂点にいるのが、渡月の翠嵐と牙狼の柊。たしか、翠嵐も柊も剣術だという噂だ。でも、柊には、牙狼特有の術がある。
『弱・針風操術』
この術は、たくさんの知識を持っている私でさえ、よくわかっていない。翠嵐、柊はクルーエルタウン(残酷な町)の支配者、穀雨、楓より強い。それにプラスして未知の“術”を使うから、今回の敵は厄介だ。」
そこまで言って、羽芺は喋ることをやめた。
「特別な“術”っていうのは、よくあるものなんだな。」
口を開いたのは、羅信だ。
たぶん、羅信が言っているのは玲さんのことだろう。玲さんは、“爍死”という特別な術を使っていたから。
羅信も私も、結局 玲さんのことを引きずっている。
「牙狼の他にも、特別な術の使い手を知っているの?」
「ああ。クルーエルタウンの時に一緒に戦った仲間がそうだったんだ。」
……どうしよう。泣きそうだ。
玲さんの話は、もうやめろ……私が、泣いてしまう。
「どういった技だったんだ? そのお前らの仲間の術は。」
「俺もよく分からないけど、穀雨自体が爆発したんだ。確か……“爍死”という技だったな。綺麗な技だったよ。」
羅信が話していて、思った。玲さんの話をする時は、いつも過去形だ。私は、それが辛かった。
「牙狼の他にも、珍術者がいるのは把握した。感謝する。その仲間はどこへ行ったのか?」
羽芺が尋ねた。
「………死んだよ。」
「え?」
「その術を使ったのが最後だった。」
羅信の言葉に涙がどんどん溢れてくる。ずっと我慢していたのが、涙の量でわかる。
「れ、い……さんっ……死んで、ほしくなかっ、たのに……!!」
私達の中では、仲間の死は思った以上に辛いものだった。
──死んでほしくなかった
私には、とても似合わない言葉だった。
羅信や羽芺……仲間になった人は、誰も死んでほしくない。
そして私も、、死にたくない。
仲間と一緒に戦いたい。玲さんの死で、少しずつ…少しずつ、命の大切さを学んだ気がした。
「じゃあお前ら、その“玲さん”の分まで頑張らないといけないな!」
羽芺はそう言うと、ずんずんと歩いていった。
──私は、これから人を救う。
第二章、“ヴァーミリオン”
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