残酷な町

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残酷な町

「……ハッ!」 何らかの衝動で目が覚めた私。 目の前に広がる世界に、唾を飲んだ。 なに、ここ…… そこは、全く見たことのないところだった。 なんで私ここに……? 『僕が君のいらない“もの”を消してあげる。』 あ、あの謎の少年! あの少年が、私の肩を掴んで…その後に目の前が真っ暗になったんだ。 「まじで、ここどこ……」 「………くれ!」 えっ、人の声? なんて言ってるのだろう。 私は、声がする方向へ足を運ぶ。 そこで私は、見た事のない光景を見てしまった。 「死んでくれ!死んでくれ!お願いだ、」 私の目の前で、2人の男が殺し合いをしている。 この町の町人か? 町人同士が、殺し合い? おかしい、とそよぎは思った。 男のひとりは剣、もうひとりは弓矢を持っている。 そしてそのとき、そよぎはあることに気がついた。 殺し合いをしているのは、このふたりだけではない。他の町人も、剣や弓、銃などを持っている。 なんだよ、ここは……異常すぎる。 そして、そよぎの目の前で剣を持った者が弓を持った者に言った。 「お願いだ…はやく死んでくれ…!言われてるんだっ!」 妙なことを言ったあと、剣を振り上げ弓を持った男に突き刺していた。 赤い液体が噴出した。 「ヒッ……」 初めて見たその光景に、思わず声が出た。足が震え、吐き気もおぼえた。 死んだのか…? 殺したのか…? 「意味が、わからない」 声にならない枯れた声で、私は呟いていた。 そのとき、剣を持った男にこちらをギロリと見られた。 彼の充血した目が私に突き刺さる。 この人、狂ってる。 完全に目が合ってしまい、冷や汗をかいた。 とりあえず、静かにこの場を去ろう。それが一番安全だ。 そう思ったとき。 「おい、そこの若い女。」 男が声を出した。 まずい、と思ったときにはもう遅かった。 男は剣を振り上げて、こちらへ歩いてきている。 やばい、やばい、やばい……! 頭の中ではやばいとわかっているのに、体が全く動かない。 喉もキュッと閉まっているようで、声が出ない。 殺される、殺される…… 先程まで、自殺をはかろうとしていた私がなぜ死に対してこれほど怯えているのか、謎だった。 「死ねェェェッッ!!」 目の前に男が立ち、叫び声をあげ剣を私に振りかざした。 死ぬっ! カッッ!!! えっ…… 激しい金属音がして、目を開くと私の目の前に青年が立ちはだかっていた。 青年は、男と同じく剣を使っていた。 さっきの金属音は刃と刃がぶつかりあったときに鳴り響いたんだ。 ……私を、助けてくれ、た…の? 「女、はやく逃げろ」 青年が言った。 私は言われるがままに、その場から離れた。 遠くから見ていて、青年の剣術はすごかった。 キーンッ、カッ、カッ…! 私の頭に響く金属音。 彼の剣をあつかう姿は、私の目を奪った。 「すげぇ……」 数分後、 「もう、やめてくれ…!!」 私を殺そうとした男が、言った。 ということは、青年が勝ったんだ。まぁ、当たり前でしょ。剣のレベルが桁違いだったもん。 「お前、渡月[とげつ]か?牙狼[がろ]か?」 青年が、男に言った。 とげつ…? がろ…? 何を言っているのかわからなかった。 「……っ!と、渡月(とげつ)です……」 男は言った。 「殺せと命じた者は誰だ。」 「い、言えない。」 「言え。お前に言えないという権利はない。」 「……穀雨[こくう]様です。」 「そいつは、何術を使う?」 「剣、だ。、剣術を使う。」 「?馬鹿なことを言うな! 俺と、お前の剣は違う。俺は…俺は人を殺めない!」 この青年…… この青年の言葉は、心にどしんとくる言葉だ。重みがあった。 「あんた、穀雨(こくう)様がどれだけ強いか知っているのか? 牙狼(がろ)の楓[かえで]という奴よりもはるかに強いんだ。」 「興味がない、俺も強いからな。俺はもう行く。お前はこれから一生、罪なき人を殺めるな。約束しろ。」 「はい」 「おい、さっきからそこで見ている女。ちょっと来い。」 え、バレてた? 私は、ソワソワしながら青年の方へ向かった。 「いやー、なんかごめんね! いきなり出てきてびっくりしたでしょ。そこんとこ、許して!」 へへっと言って、謝る青年。 へ? キャラ変してるんですけど! さっきのはどうした? 私は驚きのあまり目を閉じられなかった。 「あー、俺 羅信[らしん]16歳で剣術の使い手っす。よろしくー」 16?! 私と同じか。 それよりも、まじでキャラ変が気になるな。 「君は?」 「私? えと、そよぎ。私も16。私はここがどこなのかわからない。さっきの、とげつとかがろとか、もろもろわからない。」 「そうなんだ! じゃあ、説明するぜー」 ノリいいな、コイツ。 「ここは、クルーエルタウンと呼ばれている町。」 「クルーエル、タウン…?」 「そう、意味は“残酷な町” この町の死者数が1日に200人を超える。殺人がたえなくて、そう呼ばれるんだ。」 「嘘……」 「町人同士の戦いが起きるようになったのには理由(わけ)があるんだ。この国にはふたつの組織がある。それが渡月(とげつ)牙狼(がろ)だ。このふたつの組織が相当仲が悪く、渡月のほうが“殺し”を仕掛けた。その喧嘩を牙狼が買い、今や町人同士が殺し合いをしている。渡月には、七人、有力者がいる。朙[めい]、驟[しゅう]、穀雨[こくう]、翠嵐[すいらん]、貴桜渢[きおうぶ]、泡沫吹雪[うたかたふぶき]、響花水蓮[きょうかすいれん]。噂によると、響花水蓮(きょうかすいれん)が1番有力らしい。名前が長いほど、強いそうだ。そして、このクルーエルタウンの頂点にいるのが、穀雨(こくう)だ。」 「すげぇ、名前だな。牙狼(がろ)の方はどうなんだろう。」 「牙狼(がろ)の有力者は確か五人だったな。珠雫[しゅな]、乱霧[らんむ]、柊[ひいらぎ]、楓[かえで]、雫扇[なおうぎ]がいた気がする。穀雨(こくう)と対決姿勢をとっているのは、(かえで)。でも、牙狼(がろ)のことはなんだかんだ、よくわかってねぇんだ。わりぃ!」 「いや、別に。」 場所と状況は把握できた。 この後、どうするか…… 「そよぎ、お前 俺について来いなー!! 俺は、殺し合いを無くすことを目的としている。そよぎもだ! ここでは1日に200人死ぬんだ。殺し合いを止めるぞー!」 「……は、い」 未知の世界に来たため、何も分からない私は、羅信について行くことした。 私は……1日に死んでいく200もの人を救えるのか。
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