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残酷な町 Ⅱ
ここ、クルーエルタウンと呼ばれる場所は名前の通り残酷で、言ってしまえば汚い町だった。
当たり前のように転がっている死体。
血のにおいが鼻をつく。
夏のはずが、日が全く出ていない。灰色雲がただよう、ひどく低い空だった。
「俺は、剣術を使うんだ!独学だけどな。」
にーっと歯を見せて笑う羅信。
あの剣術が独学?!
私はそうに見えなかった……
動きも、剣の交わし方も凄かった。
「それで、そよぎはどうす─」
─バァンッッ!!
羅信が喋り始めてすぐ、衝撃音が鳴り響いた。
……銃声だ。
「そよぎ、逃げろ! 狙われている!」
私は羅信と反対方向へ逃げた。
でも、私たちのことを狙っている人が2人いたため、絶対的に戦わなければならなかった。
私を狙ったのは、男。
羅信を狙ったのは、女。
羅信は、向こうの方で銃を持った女と戦っている。
「お前、よそ見していると死ぬぞ。」
弓を持った男が言った。彼は弓を構え、矢を引いている。
シュッッッ!
鋭い音を立て、矢がこちらへとんできた。
と同時に右へ動き、矢を交わす。
「…ぶなっ」
「やるじゃねぇか、お前。っていうかお前、丸腰か? 武器を何も持っていないじゃないか。」
「だから何?」
とは言いつつ、武器無しは正直めっちゃ怖い!!
でも、矢を交わせた。
あの感覚で、矢を交わそう。
「お前……俺に喧嘩売ってる? 態度や言動が気にくわない。とっとと死んでろ、ゴミが。」
シュッッ!
「った!」
あたっ、た……?
矢を放たれた音とともに、左頬に激しい痛みを感じる。
手でそこも触ると、血がついていることがわかった。
矢がかすったんだ。
まだかすり傷で済んでよかった。
なんだ、さっきの矢は。弓を構える動作がわからなかった。
いや、見えなかった、という表現が正しいだろう。
「お前、大したことねぇな。ダセェ。」
は? うざ。
こいつ……心底うぜぇ。
ひとつひとつの言葉が、頭にくる。
「きゃぁぁぁっ!!」
なんだ?!
女の悲鳴が聞こえた。
目を傾けると、羅信と私たちを狙ってきた女がいた。
羅信が、女に剣を向けている。
羅信の剣さばきで、向こうは決着がついたようだ。
「お前、俺と戦っているのによそ見してんじゃねぇよっ!」
シュッッッ!!!
来た!
不意をついてとんでくる矢を交わす。
「もう同じ手にはあわないから。」
「ゴミと同類なお前が、ちょこちょこ動き回るな! 死ねと言っているんだ。」
何を言っているんだ、この男は。
見ているだけで、イライラする。
お前が死ねよ。
……あ、
その時、私は見つけた。
「ライフルだ……」
男がいる斜め5メートル後ろに、ライフルが落ちていた。
位置からして、羅信と戦っている女のものだろう。
私の現在位置からライフルまで約15メートル。
彼の矢を交わしながら、彼の後ろへ回りライフルを手に入れよう。
……シュッ!
男が矢を放つ回数が、多くなっている。
走りながら交わそう。
私は、男に向かって走り出した。
「何やっているんだ。バカ女。近くに来れば来るほど、矢が突き刺さる威力が増し、傷が深くなるぞ。まあ、こちらに問題はないが。」
男がお構い無しに矢を放ってくる。
スピードの速い矢を交わすのは、体中の神経を使うので、とても難しい。
ライフルまで、あともう少し。
足の回転を速くする。
「ったく、脳みその腐っている女だ。」
そう男が言った時には、私はライフルを手にしていた。
そして、男に向ける。
ダンッッ!!
鼓膜が敗れそうなほどの銃声。
撃った時の衝撃で、体がジンジンとした。
弾は男には当たらなかったが、男は戸惑っているようだった。
私は走って男に近づく。
そしてライフルを男の額へ向けた。
「お前、大したことねぇな。ダセェ。」
私は、さっき男から私へ放たれた言葉を男へ言った。
「お前の方が、ゴミだろ、生ゴミ。死んでしまえ。お前のような人間が、この世にいる資格はない。ただの汚物だ。」
カチャ……
私は弾を撃とうとした。
─が。
「やめろっ!」
「え…?」
「そよぎ、撃つな! 何をしているんだ! 銃を捨てろ!」
怒鳴り声をあげたのは、羅信だった。
え……?
どういうこと?
味方、じゃないの……?
「はやく捨てろと言っているんだっ!!」
意味が理解できない。
「どうして…」
私は羅信に言われた通り、ライフルを置いた。
私の目の前にいた男が逃げようとする。
「逃げるな。……そよぎは向こうへ行っててくれ。あとは俺がやる。」
「……は、い。」
なんで、なんで私…怒られた?
殺し合いを、なくすんじゃなかった?
悪人がこの世からいなくなれば、殺し合いは終わる。そんな当たり前なことを、どうしてやってはいけないのだろう。
羅信の考えていることは、よくわからない。
羅信の説得で、男はもう二度と人を殺さないと誓ったそうだ。
羅信は、人を説得するのがうまいらしい。
「そよぎ……どうしてさっき俺が怒ったか、わかるか?」
「全くわからない。」
「……そよぎが、人間を殺そうとしたからだ。」
「えっ……?」
「俺たちの目標は、“殺し合い”をなくすこと。なのに、俺たちが人を殺してどうする。俺たちがやっていることも殺し合いになってしまう。そんなのおかしいだろ? だから、何があっても罪なき人を殺すな。」
「……は、い。」
「そよぎは……死のうと思っていたんだろ?」
「え、なんでそれをっ…?!」
「俺も、そうだったから。」
「どういうこと…?」
「そよぎは死ぬ前に、男の子に会わなかったか?」
……あの謎の少年のことだ。
「会った。羅信も会ったの?」
「ああ。その男の子にここへ連れてこられた。俺がここへ来たのは、8年前。小学生の頃だ。」
そんな昔から…?!
「俺は、人を殺した。」
……え、?
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