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残酷な町 IV
妹を置き去りにし、俺は自宅を離れた。
怖くて、怖くて、どうしようもなかった。
寒さなんか忘れていた。
俺は、ずっと走った。ひたすら走った。
その後 俺は、浬に会うことはなかった。
浬のことを知ったのは、それから数ヶ月後だった。
俺は、祖父母宅に泊めてもらっている。
「ねぇ、これ見て……」
祖母が、驚いたような声を上げた。
祖母が祖父に見せようとしている新聞を俺も覗き込んだ。
「え、、、」
そこに大きな見出しで書いてあったのは、
“親子殺人事件”
容疑者 涼川定紀
被害者涼川繭胡、涼川浬
父親が、妻と長女を自宅にある包丁で刺す。
妻には刺し後が数か所見つかった。
8歳の長男は、祖父母に引き取られているそうです。
父さんの名前、母さんの名前、妹の名前……。
わかっていたけど……本当に浬、死んじゃったんだ。
俺が逃げてなければ、浬は助かったのに。死なないで済んだのに。
俺のせいだ。
俺が悪い。
こんな俺が、この世にいていいのかな。
少年だった俺は、頭がいっぱいになるほど考えた。
そして、ある答えに辿り着いた。
“死ぬこと”
俺も死んで、罪を償おう。
俺は、死ぬ覚悟を決めた。
そのときの俺は、ほとんどご飯を口にせず、言葉を発さず、笑いもしなかった。
祖父母は、いつもそんな俺を慰め、励ましてくれた。
「羅信は、なんにも悪くない。よく逃げ切った、いい子だよ。」
ありがとう、じぃちゃん、ばぁちゃん。
でも、俺はいい子なんかじゃない。
じぃちゃんとばぁちゃんが許してくれても、俺の中では渦を巻いて離れないんだ。
もう死ぬしか方法はないよ……
俺は、祖父母宅の近くにある踏み切りへ向かった。
俺は今日、ここで死ぬ。
カンカンカンカン……
─そろそろ……来る。
冷たい風が横切る。
カンカンカンカンカン……
俺はレバーをくぐり、線路へ入った。
キーーーッ!!
俺に気づいた電車の運転士は、ブレーキをかけた。
しかし、もう遅い。
電車が鼻先まで来た時、
一瞬……時が止まった。
「君……死んじゃうの? バカだなぁ。」
電車が目の前で動かなくなったその“一瞬”の間に、耳元で声がした。
驚いて振り向くと、そこには俺より年上の男の子がいて、俺の肩を掴んでいた。
それを認識した直後に目の前が真っ暗になり、気づけばこの町にいた。
「……だから俺は、人殺しなんだよ。」
私は羅信の話してくれた過去を聞いて、胸の辺りが締め付けられているような感覚になった。
なぜだろうか。
「羅信は、本当に浬を殺したのかな。」
「殺したに決まってる!俺のせいなんだよ。」
「さっきから、俺のせい、俺のせいしか言ってないけど、殺したのはお父さんでしょ? なんで、羅信がいちいち荷を背負わなきゃいけないわけ? 」
「それは……本当に俺のせいだから。」
「そう思って、死のうとしたの……? それ、私は違うと思う。浬はもういないけど、羅信は生きてるじゃん。私の目の前にいるじゃん。浬はきっと、羅信と一緒にいたいと思う。昔も、死んだ今も。それはもう叶わないけど。ずっと一緒にいたいと思う。羅信が死ぬのは嫌だよ。浬にとって辛いことだよ。だから……死なないで。一緒に、この戦いを終わらせようって言ったじゃん。」
スルスルと出てくる言葉。きっとこれが私の本音なのだろう。
私も自殺しようとした人間だ。命を粗末にしようとした私なのに、羅信には死んでほしくない。
なんで、かな。
『羅信は生きてるじゃん。私の目の前にいるじゃん。浬はきっと、羅信と一緒にいたいと思う。昔も、死んだ今も。それはもう叶わないけど。ずっと一緒にいたいと思う。羅信が死ぬのは嫌だよ。浬にとって辛いことだよ』
そよぎの言うことに、目から滴が溢れそうになった。
浬、俺……。
生きるよ。
浬の分も生きる。お前が辛い思いをしないように。
『死なないで。』
……誰かに、そう思ってほしかったのかもしれない。
そよぎに言ってもらったとき、嬉しかった。
俺は結局、ひとりで生きていけないんだ。
俺は、絶対にこの戦いを終わらせる。
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