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残酷な町 Ⅴ
「俺、そよぎと一緒に終わらせるよ。約束する。ってか、そよぎが裏切るなよ!」
「それ、こっちのセリフ。」
羅信は、きっともう“死のう”だなんて思わないだろう。
……よかった。
──この戦いを終わらせる方法って、なんだろうか。
羅信と一緒に終わらせることを決意したと同時に、この疑問がうかんだ。
「羅信、どうやって戦いを終わらせるわけ? 何か策はあるの?」
「当たり前! よくぞ聞いてくれた、って感じ」
……ってか、キャラ戻ってる!よかった!この羅信のキャラ わりと面白いんだよね。
「大まかな策はあるんだけど、戦いを全て終わらせるのは、俺ら2人だけだと正直厳しいな。時間もかかるし、体力も相当いる。」
「だよね、」
「とりあえず、俺が考えてる策を教えておくな! 前にも言ったけど、ここ、クルーエルタウンの頂点にいるのが、渡月側の穀雨、牙狼側の楓だ。その2人を倒す。人間は殺さない約束の俺たちだけど、穀雨と楓は例外だ。容赦なく殺す。……策は以上だ。」
「は?」
「……ん?」
「いや、意味わからない! なにその“策”! 策とかっていうレベルじゃないでしょ。策が、“殺す”だけ? 殺すためにどうするのかって聞いてるの!」
どんな作戦を立てているのかと思ったら、そんなことは全くなかった。
「殺すためにどうするか? ……うーん」
頭をかき、悩んでいる様子の羅信。
「俺さ、穀雨たちの居場所、わからないんだよなー……」
戦うためには、もちろん居場所がわからないと無理だ。
せめて、穀雨と楓の居場所がわかればいいんだけど。
「とりあえず、北部へ歩いてみよ──」
「ねぇ。」
歩いてみよう、私が羅信に言おうとしたとき、それを遮るように 私と同い年くらいの女の子が私たちに喋りかけた。
ライフル銃を持っている。
……敵か?
「そよぎ、俺の後ろにいろ。」
「あ、待って待って! 私、あなたたちの敵じゃない。この銃、弾入ってないから。」
「え、、、」
「驚かせてごめんなさい。えと、私 玲[れい]。年は17。渡月でも牙狼でもないよ。私は、銃術を使います。」
玲さんという人は、私たちより年上で、しっかりしていそうな人だった。
透き通るような容姿の持ち主で、落ち着いた雰囲気をまとっている。
「疑ってすみません! 俺、羅信っていいます。 16です! 剣術の使い手っす。」
羅信はいつものノリで、自己紹介をしていた。
「あなたは?」
「……そよぎ、です。年は16です。」
私はまだ“術”を身につけていないので、自己紹介の際、術紹介が出来なかった。
先程のライフルは念の為に持っている。
「あの。俺ら、穀雨と楓の居場所を探してて……」
羅信が目的を切り出した。
「そうなのね! 奇遇ね。目的が一致している。私は、二人の居場所を把握しているの。一緒にどう?」
玲さんの言葉に、私と羅信は目を輝かせた。
「「もちろんです! よろしくお願いします!」」
そして私たちは、敵の元へ向かう。
……この選択は、はたして正しかったのだろうか。
私たちは、まだ気づいていなかった。
この戦いの先にある未来が、あまりにも悲痛なことに───
「羅信とそよぎは、渡月と牙狼について、どこまで知っているの?」
私たちは、敵の居場所まで行く途中に、敵のことについて話し合った。
「知ってることは、有力者の名……くらいです、ね! 実はあんまりわかってなくて」
この町に8年いる羅信でさえ、情報をあまり持っていない。
「じゃあ、教えてあげましょう!」
玲さんは、敵についての知識がわりとあるらしい。どうしてそんなに情報を持っているのだろうか。
「説明すると、少し長くなるけどよく聞いていてね。
まず、渡月には7人の有力者がいるのは知っているね。7人それぞれにレベルがあって、」
「名前が長い方が強いんですよね!!」
玲さんが説明している途中で、羅信が突っ込んできた。
「ちょっと! 玲さんが説明してるんだから、おとなしく聞け。」
「いーのいーの。ありがとう、そよぎ。えーっと、そう! 名前が長い方が強いの、羅信の言った通りだよ。当たり前だけど、反対に名前が短い方が弱い。朙と驟がそうだよね。2人は、上の5人の有力者から、奴隷扱いを受けているらしいの。その辺は私もよく分からないんだけどね、有力者同士の上下関係があるのは確かだよ。それから、有力者たちも“術”を使うのは知っていたかな? 穀雨が剣術。楓が弓術だった気がする。この2人は有力者だけあって、そこらの術者とは比べものにならないくらい強いの。だからね、本当は私たちも術を極めてから2人の元へ向かった方が良いんだけど……もう向かっちゃっているし、まぁなんとかなるよ! きっと!」
幼い子のように笑う玲さん。そんな一面も可愛いです。
「とりあえず、玲さんの説明のおかげで、2人のことは大体把握しました! ありがとうございます!! でも、質問なんですけど穀雨って、どれくらい強いのかもう少し詳しく教えて貰えませんか?」
「いいけど。うーん……なんて言えばいいのかな…… どれくらいっていうのは、ちょっと難しいんだけど、穀雨は狙った人間を必ず殺すらしい。だから、それなりの覚悟が無いとだめだね。」
……狙った人を必ず殺せるほど穀雨は強いのだろうか。
私は、術をまだ極めていないのに。
足手まといにならないのだろうか。
私は……死なないだろうか。
大きな不安を抱えながら、刻刻と戦いの始まりが迫ってきている。
「そういえば、どうして玲さんは、たくさんの情報を持っているんですか?」
私が疑問に思っていたことを、直接聞いてみた。
「私、6年前からここにいてね、ここで知り合ったおじさんにたくさん教えてもらったの。私は、渡月や牙狼にとても興味があって、長い間 調べたり、教えてもらったりしていたから、情報や知識が身についたんだよね。でも、敵のことを知れば知るほど、戦うのが怖くなる。」
「そうなんですか……」
「……今は大丈夫! そよぎと羅信がついているから。穀雨と楓なんてさっさと片づけちゃお──」
玲さんが喋っていたとき、後ろから気配を感じた。
「──片づけちゃおう? お前、誰に口聞いてんだ?」
玲さんの耳元で言葉を発する男……
低く冷たい声が、心臓まで響く。
「離れろ!!!」
羅信が指示を出した。
羅信は、 この男が誰なのかをもう把握している。
───ドクンドクン、ドクン
この男が、
もしかして……
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