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番外編 ──玲──
6年前。
私が11歳になった誕生日の日。
お母さんが、死んだのね。
私は、生まれた時からお父さんを見たことがなかった。だから、ずっとお母さんとふたりで暮らしていた。
なのに、お母さんが死んだ。
どうして死んでしまったの?
私が1人になってしまうのは、確実に知っていたはずなのに。
ひどいよ!! お母さんっ!!
勝手に1人で死なないでよ!
私は、約1ヶ月只管にお母さんを憎んだ。
自分の都合で、私の前から勝手に消えたお母さんは、私にとって“裏切り者”のように思えた。
ただ、本当に心の底から憎んだわけではないと今は思う。
いきなりのお母さんの死で、頭がおかしくなっていたんだ。
お母さんは、自殺をした。
橋から、川へ飛び込んだ。
遺体が見つかるまで、約12時間かかったそうだ。
遺体が見つかっただけ、よかったなと言われた。遺体が見つからない人もいるらしい。
お母さんは、遺書を遺していた。
それに気がついたのは、お母さんが死んでから3ヶ月後。
遺書には、こう書かれていた。
──玲──
お母さんは、もう耐えられないので先に旅立ちます。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
お母さん、あなたと暮らせない。
玲ももう11歳だから、本当のことをいいます。
お母さんは、お父さんと離れてから多額の借金を抱えていました。
それを返済しながら、あなたと暮らしていかなくてはいけない。
働いても、働いても、良い生活ができたことがない。
私はなんのために生きているの?
そんな疑問がいつも頭をよぎります。それでも、私には玲がいる。
玲のために働いてきたつもりだけど、なかなか仕事の方もうまくいかず、辛くなりました。
いつも胃が痛くて痛くて、毎日嘔吐を繰り返していました。
辛いよりもはるかに辛いです。
私の気持ちは、きっと玲にはわからない。
それでも、玲は許してくれると信じるよ。
借金は全て返済し終わりました。
でも、銀行には1円足りとも入ってないです。
ごめんなさい。
許してください。
死なせてください。
こんなみっともない母でごめんなさい。
お母さんだって、こんな暮らし嫌だった。
玲にもっと良いご飯を食べさせてやりたかったなとか、旅行もさせてやりたかったなとか、玲と一緒にもう少し良い生活がしたかったとか……いつも思っていました。
良い暮らしをさせてあげられなくてごめんね。
私と一緒に生きてくれてありがとう。
お母さん──
お母さんが遺した遺書は、私が知らなかったお母さんの本当の気持ちが書かれていた。
精神的に、不安定だったのだろう。
何度か続いた“ごめんなさい”の言葉。
借金を抱えていたなんて、全く知らなかった。私のために、たくさん働いてくれたんだ。私は、どんなに幸せ者だろう。お母さんから愛情を沢山もらって育ってきた。
……感謝を伝えたかった。
お母さんに直接ありがとうって言いたかった。
「わぁぁぁっ……」
涙がどんどん溢れてきて止まらない。
お母さんのためにやりたかったこと、いっぱいあるのに。
また、一緒になれるかな……
お母さんとまた一緒になれるなら、死んでもいいと思った。
天国……で会えるんでしょう?
だったら、死んだほうが得だ。
私にはもう……誰もいないんだから。
私は、お母さんが死んだ場所と同じ所へ向かった。
橋の上に来てみると、思った以上に高い。
「お母さんに、会うため……」
そう心に思い、飛び降りようとした時……
「本当にそれでいいの?」
肩を掴まれ、耳元で声がした。
男、の子?
そう思ったときには、目の前が真っ暗になり、知らない町に来ていた。
「お譲ちゃん。そんな所にいたら危ないよ。こっちへ来なさい。」
知らない町へ来て早々、見知らぬおじさんに話しかけられた。
優しそうなおじさんだったので、変な人ではなさそうだ。
私は、おじさんに今まであったことを話し、おじさんの家で暮らさせて貰うことになった。
おじさんは、この町にあることを色々教えてくれた。
その中でも、1番気になったのが“渡月と牙狼”についての話。
調べれば調べるほど、面白かったし、残酷だった。
「おじさん、私って“術”使えるの? 練習すれば、剣術とかできるかな。」
「玲は剣術を使いたいんだな。そうか……正直、剣術はおすすめしない。敵の近くまで行かないと使えないからな。玲には、銃術が合うと思うぞ。敵が遠くにいても使える。でもな、無罪の人間を撃つのは絶対にするな。敵と戦っている時、これ以上無理だと思ったら、最終手段として敵を撃つんだ。それ以外の時は、銃に弾を入れず 銃を剣のように使うんだ。最終手段として撃つことができる銃術と、敵の近くまで行き 刺すことしかできない剣術だったら、玲は絶対銃術の方が良い。おじさんも安心だしな! 」
「銃を剣みたいに、かぁ。銃は刃物じゃないから、人を傷つけないで戦うことができるね! 私、頑張ってみる。」
「“術”の練習は難易度が高いぞ。……あぁ、それとな。玲は、元々特殊な術を使えるようになっているんだ。その術を極めれば、の話だが。お前が持っている名前、“玲”だろう? 玲は、玉や金属がふれ合ったときに鳴る、美しい音という意味なんだよ。その名前にちなんだ術でな。
“爍死”という術が使えるんだよ。」
しゃく、し……?
初めて聞く単語だ。
“玲”はお母さんがつけてくれた名前……
お母さんの、おかげかな。
「個人的特殊な術を使える者は、珍しいんだ。これは 力になるから、銃術と一緒に極めなさい。」
「はいっ」
それから、4年後。
私が15歳になった頃、“術”を使えるようになり、戦いの場へ向かう許可が出た。
私の最大の目的は、殺し合いを始めた“渡月と牙狼”を倒すこと。
その目的を果たすため、おじさんの元を離れた。
「おじさん、今までありがとうございました。極めた“術”を使って、戦ってきます。沢山の人を守ります。」
「頑張ってくるんだぞ。……気をつけて。いってらっしゃい。」
「いってきます。」
──もう、二度と人が死ぬなんて事が起きないように。
願わくば、沢山の人に囲まれて 平和な暮らしをしたい。
番外編【完】
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