番外編 ──玲──

1/1
前へ
/14ページ
次へ

番外編 ──玲──

6年前。 私が11歳になった誕生日の日。 お母さんが、死んだのね。 私は、生まれた時からお父さんを見たことがなかった。だから、ずっとお母さんとふたりで暮らしていた。 なのに、お母さんが死んだ。 どうして死んでしまったの? 私が1人になってしまうのは、確実に知っていたはずなのに。 ひどいよ!! お母さんっ!! 勝手に1人で死なないでよ! 私は、約1ヶ月只管(ひたすら)にお母さんを憎んだ。 自分の都合で、私の前から勝手に消えたお母さんは、私にとって“裏切り者”のように思えた。 ただ、本当に心の底から憎んだわけではないと今は思う。 いきなりのお母さんの死で、頭がおかしくなっていたんだ。 お母さんは、自殺をした。 橋から、川へ飛び込んだ。 遺体が見つかるまで、約12時間かかったそうだ。 遺体が見つかっただけ、よかったなと言われた。遺体が見つからない人もいるらしい。 お母さんは、遺書を(のこ)していた。 それに気がついたのは、お母さんが死んでから3ヶ月後。 遺書には、こう書かれていた。 ──玲── お母さんは、もう耐えられないので先に旅立ちます。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 お母さん、あなたと暮らせない。 玲ももう11歳だから、本当のことをいいます。 お母さんは、お父さんと離れてから多額の借金を抱えていました。 それを返済しながら、あなたと暮らしていかなくてはいけない。 働いても、働いても、良い生活ができたことがない。 私はなんのために生きているの? そんな疑問がいつも頭をよぎります。それでも、私には玲がいる。 玲のために働いてきたつもりだけど、なかなか仕事の方もうまくいかず、辛くなりました。 いつも胃が痛くて痛くて、毎日嘔吐を繰り返していました。 辛いよりもはるかに辛いです。 私の気持ちは、きっと玲にはわからない。 それでも、玲は許してくれると信じるよ。 借金は全て返済し終わりました。 でも、銀行には1円足りとも入ってないです。 ごめんなさい。 許してください。 死なせてください。 こんなみっともない母でごめんなさい。 お母さんだって、こんな暮らし嫌だった。 玲にもっと良いご飯を食べさせてやりたかったなとか、旅行もさせてやりたかったなとか、玲と一緒にもう少し良い生活がしたかったとか……いつも思っていました。 良い暮らしをさせてあげられなくてごめんね。 私と一緒に生きてくれてありがとう。 お母さん── お母さんが(のこ)した遺書は、私が知らなかったお母さんの本当の気持ちが書かれていた。 精神的に、不安定だったのだろう。 何度か続いた“ごめんなさい”の言葉。 借金を抱えていたなんて、全く知らなかった。私のために、たくさん働いてくれたんだ。私は、どんなに幸せ者だろう。お母さんから愛情を沢山もらって育ってきた。 ……感謝を伝えたかった。 お母さんに直接ありがとうって言いたかった。 「わぁぁぁっ……」 涙がどんどん溢れてきて止まらない。 お母さんのためにやりたかったこと、いっぱいあるのに。 また、…… お母さんとまた一緒になれるなら、死んでもいいと思った。 天国……で会えるんでしょう? だったら、死んだほうが得だ。 私にはもう……誰もいないんだから。 私は、お母さんが死んだ場所と同じ所へ向かった。 橋の上に来てみると、思った以上に高い。 「お母さんに、会うため……」 そう心に思い、飛び降りようとした時…… 「本当にそれでいいの?」 肩を掴まれ、耳元で声がした。 男、の子? そう思ったときには、目の前が真っ暗になり、知らない町に来ていた。 「お譲ちゃん。そんな所にいたら危ないよ。こっちへ来なさい。」 知らない町へ来て早々、見知らぬおじさんに話しかけられた。 優しそうなおじさんだったので、変な人ではなさそうだ。 私は、おじさんに今まであったことを話し、おじさんの家で暮らさせて貰うことになった。 おじさんは、この町にあることを色々教えてくれた。 その中でも、1番気になったのが“渡月(とげつ)牙狼(がろ)”についての話。 調べれば調べるほど、面白かったし、残酷だった。 「おじさん、私って“術”使えるの? 練習すれば、剣術とかできるかな。」 「玲は剣術を使いたいんだな。そうか……正直、剣術はおすすめしない。敵の近くまで行かないと使えないからな。玲には、銃術が合うと思うぞ。敵が遠くにいても使える。でもな、無罪の人間を撃つのは絶対にするな。敵と戦っている時、これ以上無理だと思ったら、最終手段として敵を撃つんだ。それ以外の時は、銃に弾を入れず 銃を剣のように使うんだ。最終手段として撃つことができる銃術と、敵の近くまで行き 刺すことしかできない剣術だったら、玲は絶対銃術の方が良い。おじさんも安心だしな! 」 「銃を剣みたいに、かぁ。銃は刃物じゃないから、人を傷つけないで戦うことができるね! 私、頑張ってみる。」 「“術”の練習は難易度が高いぞ。……あぁ、それとな。玲は、元々特殊な術を使えるようになっているんだ。その術を極めれば、の話だが。お前が持っている名前、“玲”だろう? 玲は、玉や金属がふれ合ったときに鳴る、美しい音という意味なんだよ。その名前にちなんだ術でな。 “爍死(しゃくし)”という術が使えるんだよ。」 しゃく、し……? 初めて聞く単語だ。 “玲”はお母さんがつけてくれた名前…… お母さんの、おかげかな。 「個人的特殊な術を使える者は、珍しいんだ。これは 力になるから、銃術と一緒に極めなさい。」 「はいっ」 それから、4年後。 私が15歳になった頃、“術”を使えるようになり、戦いの場へ向かう許可が出た。 私の最大の目的は、殺し合いを始めた“渡月(とげつ)牙狼(がろ)”を倒すこと。 その目的を果たすため、おじさんの元を離れた。 「おじさん、今までありがとうございました。極めた“術”を使って、戦ってきます。沢山の人を守ります。」 「頑張ってくるんだぞ。……気をつけて。いってらっしゃい。」 「いってきます。」 ──もう、二度と人が死ぬなんて事が起きないように。 願わくば、沢山の人に囲まれて 平和な暮らしをしたい。 番外編【完】
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加