残酷な町 VI

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残酷な町 VI

この男が、 もしかして…… ……穀雨(こくう)? 「この穀雨(こくう)様に会えるなんて、お前ら誠に光栄じゃないか。」 穀雨(こくう)の放つ声は、ひどく心臓を震わせる。 普通の人間とは、が決定的に違う。 「羅信とそよぎは、下がってて。私が仕留めるから。」 体勢を低くし、銃を構えている玲さん。 玲さんだけじゃなくて、私や羅信も力にならなきゃ。 「玲さん、ひとりでは危ないですよ! 俺もフォローします。」 「さっきから、何をグチグチ言ってるんだ? お前ら、3人だけで俺を殺せると思っているのか?」 私は、唾を飲んだ。 この人……私たちで本当に殺せる? この人の近くにいるだけで、寒気がし、冷や汗が止まらない。 それは、この人の……威圧感。 私は、その威圧感に耐えられるのか。 ……どうしよう。 私は何も術を使えない。 玲さんをフォローするって、どうやって? 私は何をすればいいの? 私のするべきことって何? 頭の中でいろんな考えがぐちゃぐちゃ浮かんで、ついには頭が真っ白になった。 この状況で、私の足は動かなかった。 「そよぎっっ!! しっかりしろ!! 何もできないのだったら、もう少し離れていろ!!」 真っ白になった私を目覚めさせてくれたのは、羅信だった。 『何もできないのだったら、もう少し離れていろ!!』 確かに、羅信は今そう言った。 何もできない私は、結局 足手まといなんだ。 でも、そんなの嫌だ! これは私の勘だけれど、2人の力だけでは穀雨(こくう)に勝てない。 私がいたとしても 力が加わるか、といったらそうでもない。せめて、私が(おとり)になれば、勝てる可能性が高くなるのではないか。 羅信が私を起こしてくれたおかげで、一気に考えがまとまった。 「玲さん、羅信!! 私も手伝います。」 私が言うと、ふたりは私に視線を送ってくれた。“勝とう”そう言ってくれた気がした。 現在の私たちの配置は、穀雨(こくう)がいて、その1番近くに玲さん。玲さんの斜め後ろが羅信。玲さんと羅信から少し遠く離れて私がいる状態だ。 たぶん、玲さんはすぐに穀雨(こくう)に攻撃を仕掛けるだろう。 そして、玲さんが万一襲われそうになったらそこを羅信が斬る。 今、私が考えることができるのはここまで。 その作戦だった場合、私は狙われる確率が非常に低い。穀雨(こくう)は私に興味を示さないだろう。 ん……? ? それ、使えるかもしれない。 囮作戦とはかけ離れてしまうが。 ベタな戦法だけど、やってみる価値はある。 2人が戦っている間、少し遠いところから、相手の“目”に向かって弾丸を撃つ。 穀雨(こくう)ももちろん人間だ。失う部分によっては、術の質も落ちるだろう。 私が個人的な作戦を考えている途中、案の定、玲さんが穀雨(こくう)に向かっている。 いつも玲さんの銃には弾が入っていないが、今は入っている。 穀雨(こくう)を殺すつもりだ。 でも 玲さんは今、銃を銃として使っていない。いつものように、剣のように使っている。 あれでは穀雨(こくう)を傷つけることができない。 何故(なぜ)……? 「見苦しいクソ女餓鬼(ガキ)だ。さっさと(くだ)けろ。」 穀雨(こくう)がそう言った直後、玲さんは剣刃を向けられた。 「……っ!!」 ここで初めて、穀雨(こくう)が剣をふるう。 ……ガッ!! すばやく穀雨(こくう)の剣を受け止める玲さん。穀雨(こくう)の剣は1度ふるっただけなのに、威力が強かった。だからか、 受け止めた玲さんは、威力がに負け低姿勢になっている。 ザシュッ! 剣戟(けんげき)とともに、見えたのは“血”だった。赤黒い血が地面に向かってポタポタと落ちていく。 玲さんが危なかったところを、羅信が穀雨(こくう)を刺したのだ。 「ウッ……お前……名を、なんという……」 大量の血を流しているためか、穀雨(こくう)は少し苦しそうだ。 一歩こちらがリードしている。 「穀雨(お前)なんかに教えるか、生ゴミ。」 羅信の戦いモードは、やたらとかっこよく見える。 「お前の、剣術は……(すぐ)れている。たが、な……俺からしたら、下の下だ。可哀想な餓鬼(ガキ)だよ、ほんとに。」 あ、れ……? え、 ちょっとまって? もう……普通に喋れている?! 「穀雨(お前)もう平気なのかよ……?」 羅信が穀雨(こくう)に問いかけた。 ズシュッ!!! 「った……!!」 「玲さんっ!!」 え……今、何が起こった? 1秒の間に色々なことが一気に起こりすぎて、思考が停止した。 一旦落ち着き、整理をしよう。 先程、羅信が穀雨(こくう)に問いかけた直後、剣戟が鳴り響いた。そして、穀雨(こくう)穀雨(こくう)の真横にいた玲さんの首を浅く斬る。 その時の穀雨(こくう)はほぼ玲さんを見ていなかった。 気配だけでわかるのか……? 玲さんも警戒が浅かった。だから、穀雨(こくう)の剣を交わせなかった。 この位置から見る限り、傷はそれ程深くない。深くなくてよかった。首の血管を切られたらほぼ終わりだ。 ……ガッ!!! ザシュッ!!! キーンッッ ひたすらに剣戟が鳴り響く。 穀雨(こくう)と羅信だ。玲さんは首元を押さえ、穀雨(こくう)から少し離れた。 私が所持している、銃の中に入っている弾はまだ 沢山ある。 ……今、撃つべきだろうか。 羅信もこのまま穀雨(こくう)に抵抗し続ければ、体が持たない。 穀雨(こくう)の体力も落とさなければ。 私は、銃を構えた。 慣れないせいか、構えた手が震える。深呼吸をし、一旦冷静になる。 そして私は穀雨(こくう)の目を狙い、引き金を引いた。 ダンッッ!! 以前、銃を撃った時と同じだ。撃った時の衝撃で体がジンジンとする。 この感じ、苦手だなぁ。 私が撃った弾は、残念ながら目に的中しなかったが、耳に当たった。 ここからでも見える。穀雨(こくう)の右耳が落ちた。 その瞬間、羅信が穀雨(こくう)の片腕を斬った。 「……うあぁぁぁ!!」 穀雨(こくう)が低い声で叫ぶ。 その直後、思いもよらないことが起こった。 「散殺(さんさつ) 時雨(しぐれ)。はやく死ね餓鬼(ガキ)共。」 え、今の 何……?
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