12人が本棚に入れています
本棚に追加
残酷な町 Ⅶ
『散殺 時雨。はやく死ね餓鬼共。』
穀雨が謎の言葉を放った後に、針のようなものがたくさん飛んできた。
「……!!」
私は、驚いた。
サンサツ シグレ……
先程、穀雨が言っていた言葉にあった時雨。今針が飛んできたのも、時雨のようだった。
繊細な雨といえば、小雨。 雨が降るような感覚で、針が降ってきた。
「痛い」
そう感じたのは、針が飛んできた数秒後。痛みがだんだん強くなる。
ふと目を下に向けると、地面が赤くなっていた。
「え……血?!」
その赤いものは、私の血だった。思った以上にたくさんの針が肌の表面をかすり、かすっただけなはずなのに傷が深かったからだ。
痛みが強くなり、体が重くなる。
私は、その場に膝から崩れ落ちてしまった。
「そよぎっ!!」
こちらに叫んだのは羅信だった。
羅信からも血がポタポタとたれている。
「穀雨、先程の技はお前のか?」
羅信は血を流しながら、穀雨に問いかけた。
「あたりまえだ。俺の剣術の応用版だ。可哀想に。だんだんと痛みで体が動かなくなってゆくだろう。」
私の位置でも、穀雨の言葉は正確に聞こえた。
剣術の応用版って……?
そんなことができるの?
「俺の剣術応用版の、散殺 時雨は針が雨が降るように飛んでゆく。この技は、名前の通り雨のような針が散りばめられて、人が死ぬ技だ。それほど派手な技ではないが、人を殺せる。俺は、自分でこの技を身につけた。」
穀雨が話している間も、ずっと出血が続いている。
穀雨が自身で身につけた、この散殺 時雨という技。穀雨が言う通り、派手な技ではないのに体がいうことを聞いてくれない。
玲さんは、しゃがみこみずっと下を向いている。玲さんはもう、限界か……?
そう、思った時。
穀雨がいた場所から、穀雨の姿が消えた。
……正しくは、私が見た時には消えていた。
「穀雨!!!」
羅信も目の前にいた穀雨が消えたことがわからなかったようだ。
そして穀雨が現れたと思ったら、少し離れた玲さんの目の前に立っていた。
「玲さん危ないっ!!」
私も羅信も玲さんを助けに行こうと走ったが、穀雨が玲さんを斬る速さには及ばなかった。
バシュッ……!!
玲さんの左肩から腕がない。
まだ死なない。
玲さんを死なせない。
役に立ちたい。
お願い、間に合って。
私は玲さんの元へ思いきり走った。
その時、
「爍死」
玲さんが言った。
シャリン……
鈴の音のようなものが聴こえた。
それと共に、穀雨が爆発した。
ドゴンッッ!!!
えっ?!
穀雨が爆発した後に、硝子の破片のようなものが、沢山 舞っていた。
その光景は、とても綺麗で。
穀雨は、呆気なく死んだ。たぶん、玲さんの術だ。
私は喜びと共に、悲しみを感じる。
「玲さんっ!!」
私と羅信は玲さんの元へ行く。
「……そよ、ぎ……羅信。出血量が多すぎて、私はもう無理そう。だから……このまま先へ行って。私を、置いて……行って。もうすぐ、息ができなく、なる……から。」
「やだ……玲さん!! 嫌だよ……死なないで。」
玲さんは横に倒れ、深く眠るように死んでいった。
玲さんと出会って間もないが、姉のような人だった。
死なないでほしい。
もう少しでいいから……一緒にいたい。
こんなに人に死んでほしくないと思ったのは、久しぶりだった。
仲間を失うって、こんなにも辛いんだ。
初めて知った。
羅信もうつむき、涙をこぼしていた。
私たちは一晩中、そこで泣いていた。
この町を救ったが、大切な仲間を失った。
……この選択は、はたして正しかったのだろうか。
玲さんにたずねたら、きっと “正しいに決まってる”そう言うだろう。
私と羅信は悲しみを抱え、次の戦いへ向かう。
短いようで、長く感じられたこの戦いは幕を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!