落としもの運

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 困っている。  私は今、非常に困っている!  手の中にある物理の参考書の重みに辟易しながら、一旦教室に戻るか、それともこのまま家に帰るべきかと校門の前で逡巡しているところだ。 「おー、紗季(さき)じゃん。まだこんなところに居たの?とっくに帰ったかと……」 「(つむぎ)ちゃん! 良いところに来てくれたよ!」  声を掛けてきたのは親友の紬ちゃんだった。火曜は部活でもっと遅くなると思ったから先に教室を出たのに。 「あー、部室に行ったらさ、先生が急な出張だから休みなんだって」 「何たる天の恵み! ちょっと相談事に付き合って。ハッピーバーガーに行こうよ」 「い、いいけど。紗季が寄り道するの珍しいな」 「すっごく困ってたんだよ。相談に乗って!」  戸惑う紬ちゃんを引っ張って歩き、駅前にあるカフェのような可愛いお店に入る。  ハッピーバーガーはいわゆるご当地バーガーショップ。だけど高校生のお財布にも優しい素敵なお店なのだ。しかも可愛い!  実はカフェを作ろうとしたのに、店長がハンバーガーが好きすぎて、いつの間にかバーガーショップになっていたという噂もある。駅前にお店ができてもう十五年以上らしいけど、店長さんはとっても若く見える。年齢不詳の美人さんだ。  その美人店長が、今日もカウンターの中でにっこり笑って立っていた。 「いらっしゃいませ」 「あ、どうもー」 「こんにちはー!」  このお店に来ると、ついお返事しちゃうんだよね。  今日は珍しく店内で食べているお客さんはいなくて、ラッキー!  入り口から離れた壁際の席をキープしてから注文した。 「抹茶シェイクとポテトのLください」 「抹茶シェイクいいね! 私はコーヒーで」 「滅多に来ないんだもん。ずっと気になってたのだよ。ポテトは紬ちゃんにも分けてあげるから」 「お、さんきゅー」  お願いごとをするからね。ふふふ。これで断りにくくなったであろう。  紬ちゃんは見た目はふんわりした雰囲気の可愛い女の子なのに、実は物理部の部長で、バリバリの理系。頭も良くてとっても頼りになる。  それに対して私は数学は大の苦手な、文系ど真ん中だ。  そんな私が物理の参考書、しかも高二ではなく高三のを持ってる。  紬ちゃんもそれが気になったらしく、チラチラとテーブルに置かれた参考書に目をやる。  私は参考書の上に手を乗せた。 「あのね紬ちゃん、これについて相談したいことがあるんだ」 「うんうん。何があった?」 「それを話す前にまず私の身の上話を聞いてほしいの。笑わないでね?」 「うん」  紬ちゃんが真面目な顔で頷いてくれたので、私は思い切って不運な自分の身の上話をはじめた。
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