落としもの運

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「小さい頃からずっとなんだけど」 「うん」 「私、落し物運が超悪いんだよ」 「へ?」 「落し物運」  首をひねる紬ちゃんに向かって、私は一生懸命説明した。  初めてハッキリと自覚したのは小学校六年生の時だ。  ある日の下校時、一人で帰っていると校門のすぐ脇の植え込みの中に上靴が落ちてるのを見つけた。汚れてたから最初はゴミかと思ったんだけど、よく見たら真っ白な部分もあってまだ新品なんだってわかった。  それで私、それを拾って職員室に持っていったんだ。 「ああー、なるほど。それでいじめの犯人と間違われて?」 「いや、それはない。上靴は五年生の女の子の持ち物でね、その子が同級生にいじめられてた。翌日学校で大騒ぎになって全校集会とかあって大変だったよ」 「大変そう。でもまあ紗季は拾っただけだから」 「うん、普通は何もないと思う。でもその時はいじめてた子が何故か私がその上靴を見付けたって知って……」 「ほう」 「あることないこと悪口を言い始めたらしく、全校で私のことが噂になった」 「逆恨みじゃん!」  学年が違ったし卒業も近かったから、そんなに酷いことにはならなかった。  それに今ならもっと軽く流させたかもしれない。でもまだ六年生の私にとっては大問題だった。 「ま、まあ。言い返せばよかったのに」 「無理だった。その頃は今より内気だったのだよ。次は中一の時のことだけど」 「まだあるの?」 「一回くらいじゃあ落し物運が悪いとか言わないよう」  中一の時に一番大変だったのは、家族で旅行に行ったときのこと。  旅先の駅で家族がみんなトイレとか買い物とかしてて、たまたま一人で居る時に落ちているスマホを拾った。すると私が拾ったとたんにそのスマホに電話がかかってきたのだ。  アワアワしてたら繋がっちゃって、「友達のスマホだから俺が今から貰いに行っていいかな」って言うのよ。  「どこへ?」って聞いて相手が場所を説明しようとしてた時に、丁度お父さんがトイレから戻ってきたんだ。で、私からスマホを受け取って「駅の窓口に預けておきますね」って言いかけたら、ブチッと切れてそのまんま。 「受け取りに来なかったの?」 「うん。どこで渡すとか話す前だったし」 「変なの」 「でさ、そのまま駅に届けたのですよ。ちょっと後で駅員さんから連絡あって聞いたんだけど……」 「なになに」 「罠だったんだって」 「え?」 「女の子をおびき寄せてどこかに連れ込む罠だったんだって、そのスマホ」 「うへえ……」  たまたまそのスマホが以前も同じことに使われて問題になってたらしい。私は被害にはあってないけど、後で聞いて嫌な気分になった。  紬ちゃんもげんなりした顔でポテトを口に運んだ。  あっ!  話してる間にポテトが半減してますよ……。  お話は休憩とばかりに慌ててポテトを口に突っ込んでいると、店長さんがくすくす笑いながら近付いてきた。 「コーヒーのお代わりはいかがですか?」 「あ、ください」 「はい、どうぞ」  ハッピーバーガーは店内で食べてると、コーヒーのお代わりを持ってきてくれるのだ。  しかし店長さん、笑ってたなあ。 「声、大きかった?」 「まあ、ちょっと? 他にお客さんもいないし、いいんじゃないかな?」 「じゃあいっか。それで中三の時はですね」 「まだあんの?」 「これはそんなに大ごとじゃないというか、私の胸がちょっと痛かっただけ……」  それは中学二年生の春のことだった。  廊下に置いてあるロッカーの前で、手紙を拾ったのだ。表には佐藤様へって書いてたから、てっきり私宛の手紙だと思ってさ。 「開けて見たの?」 「うん」 「何だった?」 「ラブレター」 「おおー!」  目をキラキラと輝かせて身を乗り出す紬ちゃん。けど私の心は反対に沈んでいく。 「隣のクラスの男子だったんだけど、よく知らない人なんでお断りしに行ったの」 「えー。試しに付き合ってみればいいのに」 「だってよく知らないのに付き合えないよ」 「真面目ねえ」 「お友達から始めましょうって言おうと……そうしたらですね……人違いでした」 「え?」 「私の名前は佐藤紗季。でもその手紙は、佐藤真紀ちゃんっていう、同じクラスで出席番号が隣の女の子宛のものでした」 「ぶふっ」 「だ、だって封筒には佐藤様しか書いてなかったんだもん!」 「ご、ごめん。ぐふふっ」  思い出してガックリと落ち込んでいる私に遠慮もなく、噴き出して肩を震わせて笑っている紬ちゃん。  カウンターの中の店長さんも笑ってるし。  笑い事じゃないんだよ……。
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