キセキの探偵

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 カワイイ……。   かわいい……。  可愛い……。  私は一人で、ギリギリどぶ川にならずに踏みとどまっている濁った小川に沿って設けられた遊歩道を歩きながら、さっきのリクト君の言葉を、ひたすら草をはむ牛のようにモゴモゴ反芻(はんすう)していた。                     もちろんリクト君だって、その場の雰囲気で、冗談半分で軽口を叩いたのだろう。  それは十分わかっている、わかってはいるが――   今まで生きてきて、男の人からかわいいだなんて言われた記憶ほとんどなかったから、どうしても胸の動悸を抑えることできないのだ。  ……いけない、いけない。  これではまるで異性を意識し始めたうぶな少女みたいではないか。   私はもう立派な大人。  自分より(たぶん)年下のリクト君の些細な一言で、こんなにも心を大きく揺れ動かされてどうする?   一事が万事というか、こんなことだから就職試験にだって失敗し続けてしまうのだ。  そうだ――  それよりも今は猫探しに全力集中しよう。  キノさんにざっと事情を聞いたところによると、飼い主さんはそれまでずっとリリィを室内飼いしていたらしい。  なのに今から六日前、飼い主さんがふと気まぐれを起こしリリィを抱いて外に散歩に出た際、リリィはするりと腕から抜け出してどこかへ行ってしまい、それきり戻ってこなかったのだ。  愛猫(あいびょう)が行方不明になった飼い主さんは当然真っ青になり、すぐさまペット探し専門のいわゆるペット探偵にリリィの捜索を頼んだ。  ところが、その業者は三日経ってもリリィの痕跡すら発見できない。  痺れを切らした飼い主さんは別の業者を探すことにし、リクト君とキノさんの“キセキの探偵社”をネットで検索して、“小さな奇跡を起こす”というキャッチフレーズにひかれ、改めて三日の契約期間内にリリィを探してほしいと依頼してきたそうだ。
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