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「どう? リリィの手掛かりはなんかあった?」
と、聞いてくるリクト君に、私は首を振って答えた。
「いえ……残念ながら。全然ダメですね」
「そっか。まあ俺も同じだけどさ。ノラ猫はやたら見つかるのにね――あれ、足、どうしたの?」
リクト君は私の足に気づいて言った。
「あ、もしかして靴擦れしちゃった?」
「ええ、でもたいしたことありません」
「いや、かなり痛そうじゃん……」
と、リクト君は申し訳なさそうな顔をする。
「ごめん、猫探しなんかに付き合わせたばっかりに」
「違うんです。これは就活のため普段履かないような靴を無理して履いたせいなんです。ですからどうか気にしないでください」
「いや、そういうわけにはいかないでしょ――あ、そのままちょっと待ってて。そこのコンビニで絆創膏買ってくるから」
リクト君はそう言うと、止めるもなくダッシュしてどこかへ行ってしまった。
そしてほんの数分後、軽く息を切らしながら戻ってきた。
「さ! 俺が責任もって絆創膏貼るから、足見せて」
「ええ! いや、いいです!」
「いいからいいから」
リクト君は悪気のない様子で、私の足元にしゃがみこんだ。
膝が少し出るくらいのスカートとストッキング姿とはいえ、出会ったばかりの男の人に足を出すなんて、恥ずかしいことこの上ない。
ところが次の瞬間、リクト君は「あっ」と短く叫び、何もしないでパッと立ち上がった。
どうやら私の足を間近で見て、急に恥ずかしくなったらしい。そして――
「ゴメンゴメン。考えてみれば女の人にこんなことすんの失礼だし、下手すりゃセクハラだよね」
と、微妙に顔を赤らめて言った。
最初、公園で私に突然声をかけてきたくせに、今さらこの反応。
軽いように見えて実は真面目というか、妙に人懐っこいくせして意外と女性に免疫がないのだろうか?
「いえ……あの、とりあえずその絆創膏を下さい。お金は払いますから」
「お金なんていいって!」
リクト君はそう言うと、私に絆創膏を二枚ほど渡してくれた。
「すみません、あとは自分でやりますね」
とはいえ、私はストッキングを履いている。
まさかこの場で生足になるわけにはいかないので、とりあえずストッキングの上から絆創膏を貼った。
それでも傷口はかなりガードされた。パンプスを履き直してみてもあまり痛みはない。
「これでもう大丈夫です。ありがとうございました」
私はスーツのしわを伸ばしながらお礼を言い、ついでに一つ質問をしてみた。
「あの――さっきから一つ聞きたかったんですが、“キセキの探偵社”っていったいどんな経緯で設立したんですか? 探偵ってかなり珍しい職業だと思うんですが……」
「ああ、それは――」
リクト君は一瞬逡巡したのち、口を開いた。
「詳しく話せば長くなるんだけどさ、一番の理由は俺が昔っから探偵業に憧れて、どうしても探偵になってみたかったってことかな」
「はあ……憧れ、ですか」
憧れを貫いていきなり探偵という職業に就いてしまうなんて……。
私にはとてもマネができない、限りなく羨ましい生き方だ。
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