キセキの探偵

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「うーん大丈夫かな、あの人の言う通りにして」  リクト君が遊歩道を歩きながら半信半疑に言った。 「一時間後ってもうタイムリミットぎりぎりじゃん。そん時にあの公園に行っていったいなにがあるのさ」 「確かに……。しかし、それにしても謎なご老人でしたね」  と、キノさんが難しい顔をする。 「椎名さん見ましたか? あの方がしていた腕時計、あれは今なら数百万する代物ですよ。そんなお金持ちがノラ猫のエサやりとは……」  数百万!  普段使いでそんな高級時計をしてしまうとは、それこそ真のお金持ちなのかもしらない。けれど―― 「キノさん、猫好きに貧乏も金持ちも関係ないと思いますよ」  と、私は言った。 「ノラ猫にエサをあげることの賛否は置いておいて、あのお婆さんの猫に対する愛情は本物でしょう。だから私は鈴木さんの言うことを信じます。今さら他にリリィを見つける手立ても思いつかないわけですし」  リクト君もキノさんもうなずいて、それ以上何も言わなかった。  結局、キセキの探偵二人は、鈴木さんの言葉に賭けることにしたのだ。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  そしてついに指定の時間が訪れた。  午後七時を過ぎ、ようやく陽が落ち空には半月が浮かび、ビルや街灯に無数の(ともしび)が付き始めたころ――  私たち三人は、昼間来た公園の入り口に立っていた。  ここでリリィが見つけられなければ、今回の依頼解決は失敗に終わる。  その場合、リクト君の決断次第では“キセキの探偵社”は解散となるかもしれないのだ。 「行きましょう」  私は祈るような気持ちで、相変わらず人気のない公園内に足を踏み入れた。  大した広さはないので、一周するのに一分もかからないのだが―― 「ああっ! あれ!」  と、真っ先に声を上げたのはリクト君だった。 「しっ! 静かに!」  その口を、キノさんが慌てて塞ぐ。  だが、リクト君が思わず叫んだのも無理はなかった。  なぜなら、公園のちょうど中央に立ったこうこうと光る街灯の真下に、十匹ほどのノラ猫が集まっていたのだ。  猫たちは鳴いたりじゃれあったりすることもない。ただ静かに時を過ごしている、何とも言えない不思議な光景だ。 「猫の集会……」  噂には聞いてことはあるけれど、まさかこんな都会の公園でお目にかかれるとは……。 「すげーな、猫だらけだぜ」  と、リクト君があ然として言った。 「――でもさあ、あのお婆ちゃん、なんでここに猫が集まるのが分かったんだろう?」 「それはおそらく長年猫の世話をし続けるうちに、この地域の猫の動きや習性をすべて把握できるようになったのでしょう。それでも不可解ではありますが」  と、私は答えた。 「で、リリィは――?」   パッと見た限り、集会の集まった猫の中にリリィの姿は見当たらなかった。  しかし――   「あ、あそこを見てください……!」  キノさん小声で囁き、指をさす。  その指の先には、昼間、私が座っていた白いベンチがあり、座面の上に赤い首輪をした一匹の茶色の子猫ちょこんと座っていた。  あれは――間違いなくリリィ!
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