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それにしても、いい歳していきなり泣いてしまうなんて……。
誰かに見られていたらどうしよう。
私は何だか急に恥ずかしくなって、苦笑いしながら手で涙を拭った。
と、その時――
「どうしちゃったの? 子猫ちゃん」
突然、誰かが背後から声をかけてきた。
「きゃっ!」
なかなかのいい声――だったのだがタイミングがあまりに唐突、しかも薄ら寒いセリフにびっくりして、私は思わず叫んでしまった。
「あ、ゴメン。驚かせちゃった?」
ギョッとしてベンチに座ったまま後ろを振り向くと、そこには、バツの悪そうな顔をして頭をかく見知らぬ一人の青年が立っていた。
年齢はたぶん私より少し下――19か20歳くらい? だろうか。
服装は紺の半袖パーカーに緑の五分丈パンツというラフな格好。
髪は微妙に茶髪で、今どき流行りの軽いウェーブのかかったマッシュヘア。
やや大きめの澄んだ瞳はどこかに少年っぽさを残しており、ほほ笑む口元から白い歯がこぼれて見えた。
一口に言えば、かなりのイケメン。
大学に通うため田舎から出てきてこのかた、男の人とは縁がなく、また興味のなかった(ふりをしていた)私が一瞬ドキリとするくらいの――
とはいえ、見知らぬ相手にいきなり話しかけられて、警戒するなという方が無理というものだ。
「あの、何か御用ですか?」
まさかナンパ?
いやでも、なんでこんなかっこいい人が、どうして色気ゼロのリクルートスーツ姿の私なんかを……。
「そういうわけじゃないけどさ、ちょっと気になってね」
と、そのイケメンは軽い口調で答えた。
「こんな暗い公園のベンチで一人でさびしそうにしてるんだもん。誰でも心配になるでしょ」
どうやら泣いていたことには気づかれていないみたい。
が、何だか弱みを握られたような気分になって、私はおずおずと言った。
「……別に大丈夫でから、どうぞ気にしないでください」
「でもさ、なんかほっとけないじゃん」
。「いえ、本当にかまわないでください。ちょっと嫌なことがあっただけですから」
「だから嫌なことって何さ?」
「ですから、たいしたことじゃないんです!」
「えー、そうには見えないけどなあ。いいから俺に全部話してみなよ、そうすれば楽になるからさ――――って痛てぇえええ!」
え、何なの?
なんでイケメンがもう一人!?
私に声をかけてきたイケメンAが、痛がって悲鳴を上げた理由。
それは新たに現れた別のイケメンBが、イケメンAの右の耳をぎゅうっと引っ張ったからなのだった。
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