キセキの探偵

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「こら、リクト! いったい何油売ってるんですか! 今は仕事中でしょう!」  と、怒って叱るイケメンB。  歳は私より上で、たぶん30歳前後か。  背がすらりと高く顔は細面で、知的でやや鋭い目にはしゃれたメタルフレームの眼鏡をかけている。  豊かな髪をきっちり整え、ノーネクタイとはいえ上等のスーツを着こなすその姿は、まるでエリート商社マンのようだ。 「いてて! 耳はやめてくれ耳は! 俺はネコじゃねー!」  実力行使するイケメンBに対し必死に叫び抵抗するイケメンA。 「耳をつかむのはウサギでしょう! ネコならこっちだ!」  負けじとイケメンAの首根っこをぐいっと引っ張るイケメンB。  まったくタイプの異なる二人のイケメンは、あっけに取られている私の前で揉みへし合いを始めた。  しかし、イケメンAはすぐに音を上げ―― 「だから痛いって、分かった。分かったからキノさん! もう勘弁して!」  と、詫びを入れた。  すると、イケメンBはようやく手を放し、ため息をついて言った。 「リクト、もう何度言ったか分かりませんが、いい加減自分が事務所の経営者であるということを自覚してください。このままだと今月の事務所の固定費が落ちないですよ」 「へいへい分かりましたよ。要は今日中に依頼を解決すりゃいいんでしょ」  コントのような二人のやり取り。  それを眺めながら、私は頭の中でここまで判明した情報をまとめてみた。  仕事をサボっているやや幼い感じのイケメンAの名はリクト君。  真面目でエリートサラリーマン風の大人なイケメンBの名はキノさん。  二人は何かの事務所を経営しているらしく、今日中に仕事を終わらせないと金銭的にまずいことになってしまう――  こんなところだろうか?  「でもさあ」  と、イケメンA=リクトくんは肩をすくめて言った。 「若いお姉さんがこんな公園で一人で寂しそうにご飯食べてんだもん。絶対何かあったんだろうなって思うっしょ。ちょっとほっとけないよ」 「いや、そう決めつけてしまうあまりに短絡的でしょう」  が、イケメンB=キノさんは冷静に反論する。 「年齢と服装から見るにこの方は就職活動中。試験やら面接やらで非常に忙しいはずです。その合間をぬって急いでランチを取っているだけ、という見方もできる。いやむしろそっちの方が可能性が高いと思えますがね」 「えー、それはどーかな? 急いでいるのだったらむしろそこら辺のお店に入ってちゃちゃっと済ますでしょ。だってさ、コンビニでサンドイッチ買って、食べる場所探して、ハンカチ広げて――なんてやってたら逆に時間がかかるじゃん」 「ではお金を節約したのでは? 外食するよりも、買って食べた方が安いですからね」 「キノさん、それも違うなあ」  と、リクトくんはすかさず言い返す。 「あのさあ、一応探偵ならよく観察してみなよ。この人が買ったサンドイッチ、コンビニのとはいえローストビーフをはさんだ高いやつだし、そっちのおにぎりもイクラの入った高級バージョンじゃん。税金入れたら二つで七百円近くするよ。あ、それにカフェラテまで買ってるから、合わせて九百円かな」 「……それでもお店で食べるよりは割安でしょう」  キノさんはカチンときたらしく、眉をピクリと動かして言った。  しかし、リクト君はそんなことおかまいなしに畳み掛ける。 「いやいやキノさん、さっき近くの大通り歩いた時、安くてうまそうな食べ物屋いっぱいあるの気づかなかった? ここら辺りはオフィス街でサラリーマンの人が多いから競争が激しいんじゃないの、ランチなんて千円以下でよりどりみどりなんだよ。だからお金の問題じゃないってことは明らかなんだよね」
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