キセキの探偵

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 だいたい合っている。だけど……。  憂鬱な気持ち紛らわすため、せめて自分の好きなもの食べようと思って買ったサンドイッチとおにぎりのことを、まさかこんな風に推理のネタにされるとは思わなかった。  普段は気弱な私も、さすがにそろそろ腹が立ってきた。 「なるほど、それで私がランチを取りながら、何か深く悩んでいると思ったわけですね――」  私はベンチを立ち上がり、二人に向かって言った。 「じゃあついでに、と言ってはなんですけどその悩みの内容は分かります?」 「うーん、そうだなぁ」  リクト君が一瞬考え、答えた。 「恋愛関係ってことも考えられなくはないけど、まあ就職活動が上手くいってないという線が妥当かな?」 「それは私も同意見ですね」  と、キノさんが頷く。 「学生にとって就職が決まらないというのは本当に深刻な事件ですからね。あるいは人生で最初にぶつかる大きな壁、と言っていいかもしれません。かくいう私も身に覚えがありますよ」 「はいはい、キノさん、自分の話はいいから。――で、答えは何? やっぱ就職の件?」  リクト君が無邪気に訊いてきたので、私は二人をにらみ付けて叫んだ。 「それで正解、ご推察の通りです――って見れば分かるでしょう! いい加減にしてください。黙って聞いていればいい気になって。そもそもですね、人が真剣に悩んでいるのに、それを推理ゴッコのダシにしたりして失礼とは思わないんですか?」   「これは――たいへん失礼しました」  私の剣幕に驚いたキノさんが、慌てて身を正し頭を下げた。 「職業柄、つい悪い癖が出てしまいました」 「職業柄、ですか? さっきの話では探偵とかおっしゃってまたっけ?」 「ええ実はそうなんです。と言ってもまだ開業して四か月ほどの新参の事務所なんですけどね。さあ、名刺をどうぞ」  キノさんはそう言って名刺を取り出し、私に差し出した。  そこにはこう書いてあった。  『 小さな奇跡起こします。   キセキの探偵社   所員 木野(きの) 流一郎(りゅういちろう) 』 「ほい、これが俺の名刺」  と、リクト君も私に名刺をくれる。 『 小さな奇跡起こします。   キセキの探偵社   所長 (せき) 陸斗(りくと) 』
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