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「へえー、キセキの探偵社っておっしゃるんですか?」
私は名刺を見て言った。
「キセキ――奇跡って……ああ、分かりました。お二人の名字から取ったんですね?」
「そうそう! キノとセキ、合わせてキセキ!」
リクト君が嬉しそうに叫んだ。
「よく分かったね。なかなかいい名でしょ?」
「……ええ、そうですね」
と、一応同意したものの、私の口調は曖昧だった。
だってキセキの探偵社って――
ノリで名付けたのだろうけど、失礼ながら名前負けしているというか、素人に毛が生えったぽい程度の探偵が、いったいどんな奇跡を起こせるというのだろう……?
そんな私の心の内も知らず、リクト君は自身ありげに胸を叩く。
「何か依頼があったら、ぜひウチでお願い! なんでもやるから!」
が、すぐにトーンダウンして――
「あっ! でも、就職先を見つけてあげるのはちょい無理だけどさ……」
言ってからしまった、と思ったのかリクト君はモゴモゴしている。
でも、その彼の素直な態度に、私は少なからず好感を抱いた。
「ありがとうございます。でも安心して下さい。いくらなんでもそんなことを依頼しようとは思いませんから。それにこれは私自身の問題ですし」
「ごめん! 無責任なこと言って」
頭をかくリクト君。
その額をキノさんがコツンと叩く。
今もらった二人の名刺には所長がリクト君で所員がキノさんと書いてあったけど、この様子だとどう見ても立場が逆だ。
「ほらリクト! もうこれ以上この方のプライバシーに立ち入るのはやめなさい! ――どうもすみませんね。我々はもう仕事に戻りますから、どうぞ気になさらずそこで昼食をお取り下さい」
「あ……はい」
キノさんにそう言われ、私は再びベンチに座った。するとその途端、お腹かが微かに鳴った。
二人と話したおかげなのかもしれない。そういえば多少空腹感が出てきた気がする。
そこで私は中断していたお昼を食べることにし、ローストビーフのサンドイッチのラッピングを取って、直角三角形に切られたパンの角をパクリと齧った。
が、味なんてほとんど何も分からない。
というのも、公園内を歩き回るリクト君とキノさんの方に興味がいってしまい、口をもぐもぐさせながら私の目は二人をずっと追い続けていたからだ。
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