キセキの探偵

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  「リリィー!」 「リリィちゃん出ておいで!」  リクト君とキノさんは誰か? の名前を呼びながら、身を屈め、公衆トイレの陰やツツジの植え込みの中を覗き込んでいる。  さらによく見てみると、リクト君は手に茶色い棒のようなもの――おそらくサラミかカルパスのたぐいをブラブラさせ、一方キノさんは地面には動物用のキャリーケースを置き、大きな虫取り網を両手で構えていた。  その様子から判断して、二人の探偵がこの公園で何をしているかはもう明白だった。  ペット――おそらく猫を探しているのだろう。  だからさっき、リクト君は私なんかのことを思わず「子猫ちゃん」呼ばわりしてしまったのだ。  うーん?  声をかけてみようか?  私は猫が昔から大好きで、実家で何匹も飼っていたから、猫の生態に関して熟知している。   見たところ二人の探偵はどうも猫についての知識は乏しそうだから、何かアドバイスくらいはできるかもしれない。  と、迷っていると―― 「うわっ」  リクト君がツツジの茂みの前で突然おかしな叫び声を上げ、体のバランスをグラリと崩した。  なぜならリクト君の目の前へ、可愛いけれどかなり太った茶色のデブ猫が、いきなりパッと飛び出してきたからだ。 「キ、キノさん! 出た出た! 早く網で捕まえて!」 「リクト――」  焦るリクト君に対し、キノさんは大きなため息をついて言った。 「少し落ち着いてください。どこをどう見たらこの猫がリリィに見えるんですかね。毛色以外似ても似つかないでしょう」 「あ、アレ? アハハ……そうだね」   寝ているのを邪魔されたのか、そのデブ猫は、照れ笑いするリクト君をにらみつけ「ニャア~」と不機嫌そうな鳴き声を上げると、どこかへ走り去ってしまった。 「やれやれ、参りましたね」  キノさんがデブ猫を見送りながら言った。 「どうやらこの公園にもいないようですね」 「やっぱさ~、キノさん」  と、リクト君がふてくされたような顔をする。 「俺たちには所詮無理だったんだよ、子猫探しなんて。だってさあ、専門の業者が三日間探しても見つからなかったんでしょ?」 「リクト、今さら弱音を吐いてどうするんですか!」 「いやだってさ、いくら依頼は何でも引き受けますって言ってもさ、探偵が猫探しはないでしょ猫探しは。行方不明の人間を見つけろっていうならともかく……」 「ちょっと待ってください、リクト。我々に仕事を選り好みするような余裕はないことくらいはあなたも分かっているでしょう? それに難しい仕事だからこそ成功報酬も破格なんですよ」 「キノさん、またお金の話? うーん、やだなあ」 「で・す・か・ら! 事務所を維持していくためにはキレイごとだけじゃ済まないんですよ!」  リクト君とキノさんという相棒(バディ)の仲の雲行きがどうも怪しくなってきた。  それにやっぱり猫のこと関しては黙っていられない。  私はいてもたってもいられなくなり、サンドイッチとおにぎりをそそくさ片付け、ベンチから立ち上がり二人の方へ駆け寄った。
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