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「あのう……ちょっと」
私が遠慮がちに話しかけると、キノさんが振り返って答えた。
「ああ、すみません、お食事中なのに少し騒がしかったですか?」
「い、いえ! とんでもない。あの、それよりお二人は猫をお探しなんですか?」
「ええ、まあそうなんですが、朝からこの付近一帯をくまなく探しているというのにまったく見つからなくて」
と、キノさんが困ったような顔をする。
「そうだ!」
そこでリクト君んだ。
「キノさん、一応この人にも聞いてみようよ。万が一ってこともあるし」
「ああ、それはいいですね」
キノさんはそう言うと、小型のタブレットを取り出し私に差し出した。
「度々申し訳ありません。この猫、リリィというメスの子猫なんですが――ここら辺りで見かけませんでしたか?」
そこには一匹の赤い首輪を付けた愛らしい猫、典型的な茶色の毛のアメリカンショートヘアが映っていた。
子猫と言ってもたぶん一歳くらいで、ほとんど成猫。
毛並みが美しく、いかにも血統書付きと言った感じで、ペットショップ買ったのなら相当値が張っただろう。
「残念ながら……。さっき逃げて行った太った猫ちゃんが私が今日初めて見た猫ですから」
「やっぱそうだよねえ」
それを聞いて、リクト君が肩を落とす。
「そんなに都合よくいくわけないっか」
「ありがとうございました」
と、キノさんは写真をしまい、丁寧に頭を下げた。
「では我々これで。――リクト、まだ時間はあります。さあ、今度は向こうの川沿いの遊歩道を手分けして探してみましょうか」
「あ、あの――」
二人が行ってしまいそうになったので、私は思わず引き留めた。
「差し出がましいようですが一つアドバイスさせてください。エサで釣るのはともかく、猫を捕まえるのにその網はちょっと……」
「ああ、これですか?」
キノさんが手に持った網を掲げていた。
「一応動物用のものを急きょ購入したのですが……」
「あのですね、私は子供のころから猫を飼っていたから分かるんですけど、猫って気まぐれ屋さんに見えて実はとっても頭が良くて敏感な動物なんです。そんな網で捕まえるなんてあまりにかわいそうだし、下手すれば網を見ただけであなたを敵とみなしてさっさと逃げちゃいますよ、たぶん」
「なるほど、確かにそうかもしれません」
と、キノさんが神妙な面持ちになる。
「分かりました、この網を使うのは止めにします。傍から見れば動物虐待とも受け取られかねないですしね」
「それがいいですよ。――あと蛇足ながら、さっきおっしゃっていた「ウサギは捕まえるときは耳を掴む」という知識も誤りです。むしろウサギは耳に神経が集中しているので、なるべく触らないようにしてあげた方がいいんですよ」
「へえーお姉さん、動物にくわしいんだねぇ」
と、リクト君が感心したように言う。
「別にそういうわけではないんですけど、小学生の時どうぶつ係でウサギの面倒を見て結構たいへんだったことを思い出してしまって。そういえば最近はウサギを飼う学校もだいぶ減っているそうですね――」
そこまで一気にしゃべって、私はふと我に返った。
あれ? 知り合ったばかりのこの人たちに、私はいったい何を一方的に語っているのだろう?
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