カミサマのいない世界

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カミサマのいない世界

 この世界に神様がいるのかどうか?  生きていてそんなことを、真剣に考えたことなどなかった。二年前、俺が仕事でA国に短期出張で出向くまでは。  A国は所謂紛争地帯というやつだった。俺が行くことになった理由はといえば単純明快で、その国に会社が持っている工場があるからに他ならない。会社名は、B社とでもしておいて欲しい。正直この話を語るにあたり、それらの固有名詞をはっきり明言したくないことはなんとなく察して貰えると助かる。はっきり言って、今から語ることは気分がいいとはとても言えないような内容であるのだから。  俺の会社が持っている工場は、都市部からだいぶ離れた村の近くに存在していた。  その会社で商品を売っているわけでもないのになんでそんなところに会社があるのかといえば、これも理由は簡単。とにかく人件費が安かったからだ。日本で人を雇うよりずっと安く済むし、言い方は悪いが彼ら彼女らは貧しくて食うに困っている。多少きつい仕事だろうが安かろうが文句を言わずにやってくれるだろう、なんて腹積もりも会社にはあったのだろう。  長年小競り合いが続いているその国は、お世辞にも治安がいいとはいえない場所だった。俺が女性だったら、今回の仕事は二の足を踏んだかもしれないほどだ。  幸いにして工場のあるあたりは都市部から離れている分、テロリストの標的にもなりにくい。なんせ人口そのものが少ない、のんびりとした小さな村があるばかりの地域だからだ。それでも人員が大量に確保できる訳は、都市部を含めたたくさんの労働者が、長時間長距離を移動して働きに来てくれるからに他ならなかった。  俺はといえば、その会社を視察して、業務の内容をしっかりチェック・指導するのが仕事になる。  工場の作業員には若い女性も少なくないし、中には子供連れもいる。工場に併設された託児所は、いつもたくさんの子供でごった返している。俺は毎日の視察がてら、帰りに託児所を覗くのが日課だった。何を隠そう、昔は保育士を目指していた時期もあったのである。俺は幼い子供が大好きだったし、子供に好かれやすい質という自身もあった。どうにも俺の“恵比寿さん”みたいな容姿は子供達から警戒を抱かれにくいらしい。下手にイケメンでなくてよかったのかも、なんて思うとちょっと虚しい気持ちにもなるが。 「おーい、アラン!遊びに来てやったぞー!」 「コースケ!」  その中でも、俺は従業員の息子とは特に仲が良かった。名前は、とりあえずアランということにしておこう。
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