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もし。
この世界に神様なんてものが一人もいなければ、どうなっていたのだろうか。
自分達が普通の人間であったなら。
あるいは神様として生まれたのが自分達だけであったなら。
それとも人々が自分達の教えを忠実に守り続け、他の宗教のことも尊重し、欲望に負けずに平和を保つことができていたなら。
もし、もし、もし――いくらそんなIFを積み重ねたところで、意味などないということくらいはわかっている。それでも、クリスは考えずにはいられないのだ。
神様、お願いします。そう人々に祈られるたび、不条理を感じずにはいられない。だってそうだろう。散々身勝手なお願いを押し付けてくるくせに――そんな自分達の願いはひとつたりとて叶える気がない人間達。怒りを、悲しみを、虚しさを。感じるなと言う方が、無理があるのである。
「……何でこうなるのよ」
さらさらと境界を流れる小川を眺め、こうして穏やかに語ることさえいつまでできることだろうか。
あと何回、自分達は三人だけのこの時間を持つことができるだろう。虹色に染まった空を見つめ、苦しい胸のうちを分かつことができるのだろうか。
「こんなこと誰がやれって言ったのよ……ねえ、誰が、誰がっ……!」
「ルシーラ……」
膝を抱えて嗚咽を漏らすルシーラを、クリスとダーラは黙って見つめることしか出来なかった。
ルシーラ聖教の過激な信者達がついに、恐れていた行動を起こしてしまった。ルシーラ以外の全ての神と信者は抹殺されるべき、世界中の人間全てをルシーラ聖教の信者にしなければならないと主張し――テロを起こしたのである。
標的となったのは、ダーラの教えを守る人々の寺院だった。
国で一番大きな寺院に仕掛けられた爆弾が爆発し、何千、何万という人々が死傷する大惨事となったのである。ダーマ教の人々は怒り狂い、ルシーラ聖教を国教とする国々へ宣戦布告してしまったのだった。
最悪なことはまだある。ルシーラ聖教を国教とする国と、クリストファー神教を国教とする国は、長年ある島の領土を争っているのだ。その島が、それぞれの宗教にとって聖地とされてしまっているからである。今回宣戦布告されたルシーラ聖教の国は、まさにその聖地に一番近い場所に位置する国であった。聖地が傷つけば当然、クリストファー神教の国々も黙ってはいないことだろう。
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