硝子の十字架

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 三大宗教を巡って、今まさに世界を三分割する大きな戦争が起きようとしているのだ。このままぶつかれば、本当に世界の大半は焦土と化してしまうだろう。少なくとも最後の一国になるまで争いをやめないことは明白である。――それはすなわち。自分達のうち最低でも一人は、国民達と共に消滅する可能性が高いことを意味していた。 「……僕、嫌だよ。ルシーラが消えるのも、ダーラが消えるのも嫌だ」  境の川の水面に、虚しい言葉が落ちていく。 「俺も嫌だ。クリスにも、ルシーラにも消えてほしくねぇよ」 「私もよ。ダーラとクリスと……ずっと一緒にいたい。願ったのはただそれだけじゃない。どうして、それが許されないの?私達がそれぞれ違う神様っていう、それだけでいけないの?」 「……」  神様、お願い。  そんな言葉で一体どんな願いが叶うと言うのだろう。  その神様は自分達であるはずなのに、そんな自分達は一体何に縋ればいいというのか。何十回、何百回、何千回。同じことを祈って祈って、祈り続けて何も変わりはしなかったのに。 「……いなければよかったんだ、神様なんて」  だから、クリスは。顔を上げて、大切な友二人に尋ねることにするのだ。  二人は、最後のカードを切る覚悟があるのかと。 「僕達を争いの理由に、言い訳にして人を殺すというなら。そんなもの、なくなってしまった方がずっといい。そうは思わない?」 「クリス、お前……」 「この世界に、神様なんか要らない。……僕達がいなくなれば平和になるかもしれないなら、その方がいい。少なくとも僕は……友達を殺して得る平和なんかクソ食らえだと思うよ」  二人はどう?と問いかける。愛しい友人達は少しだけ瞳を揺らして――やがて、頷いた。  互いに手を握りあって、最後の誓いを立てるのである。 ――神様に天国なんかないかもしれない。そして、あの世があってもそれは、楽園のような場所ではないかもしれない。それでも。  自分達は神様だ。  それでも人間と同じように意思があって、何かを選ぶ権利を持っているはずだというのなら。 ――それでもいい。……その先が地獄だとしても……また会おうぜ、二人とも。今度こそ、ずっと一緒だ。
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