【秘密の恋、知られて……】

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969c4d0a-7488-4b66-93cc-cbcd765513de【秘密の恋、知られて……(2/2)】  ********************  27.泣いて、笑って、それでも好き (バレた……知られてしまった……!)  桜子は蒼白になった。絶対に知られてはいけない秘密が、よりによって親友の二人に……  わかってはいるんだ、自分でも。桜子にとって、それがどれだけ真剣で悲痛な思いであっても、人から見れば、どれだけ異常で気持ちの悪いことなのかは。覚えていないから、知らないから、だからって許される感情ではないことは。 「でも……仕方ないじゃないか……!」  サナとチーの目が、非難と軽蔑をしているように桜子には見えた。それが悔しくて、悲しくて、両手を握り締めてボロボロと涙を零す桜子に、サナとチーがぎょっとする。 「桜子……」 「だって、知らないんだよっ! 会ったことない人なんだよっ! だから、一緒にいると、ドキドキしたって仕方ないじゃないかっ!」 「桜子、アタシらそんな……」 「わかってるよ! 自分でも気持ち悪いと思うよ! 自分でもどうしようもないんだよ! だから、胸にしまって、言わないんじゃないか……お兄ちゃんにだって言えないんじゃないか……なのに……それなのに……」 「ヒドいよ、二人とも……」  桜子が顔をグシャグシャにして泣いていると、サナとチーが、両側からガバッとしがみついてきた。 「ゴメンっ……ゴメンね、桜子……っ!」 「アタシら、そんなつもりじゃなかったんだよ……!」 「うええええん……うわああああん……」 もう、サナもチーも顔を真っ赤にして泣いていた。  三人は抱き合って、人目も気にせずわあわあと泣いている。誰もいない中庭で、ちょうど良かった。  こうして、桜子達の“学校裁判”は閉廷したのだった――……  **********  しばらくして、三人はベンチに座って、夏の気配の近づく青空を見ていた。  外聞もなく泣くだけ泣いて、少しだけ気分がすっきりしていた。サナはまだ目を真っ赤にして、申し訳なさそうに、桜子のやっぱり赤い目を覗き込んだ。 「ゴメンな、桜子。アタシら、桜子を傷つけるつもりはなかったんだよ」 「ううん。自分でもわかってるんだ、兄妹でさ、オカシイってことは」 桜子は悲しそうに微笑んで、首を振った。  するとチーが桜子以上に激しく首を振って、 「そんなことないよ、だって考えてみなよ」 桜子とサナに向かって言った。 「全然覚えてないならさー、それって知らない高校生のお兄さんと、ある日突然一緒に暮らし始めるってことじゃん。しかも、相手はあの桜子兄ちゃんだよ?」  二人の知っている桜子兄ちゃんは、せいぜい中学生の頃までだが、ショッピングモールで久しぶりに見た遼太郎は、すっかり背も高く、ルックスも良くて、完全にオトナのお兄さんだった。 「あー……そりゃ心臓ドキバクだわ」 しかも桜子の言うようにめちゃくちゃ優しいとくれば、 「そりゃあ確かに“どうしようもない”なあ」 自分の身に置き換えてみれば……  そんなのサナだって、たぶん好きになる。  三人で泣いて笑って、桜子にもほんの少し元気が戻ったようだった。 「あのね、お兄ちゃんと“初めて”会った時にね……」 桜子は二人に、病院での出来事を話した。その時、お兄ちゃんにひと目惚れをしてしまったことを。  これを聞いたサナが顔をしかめて、 「うわ、初対面からそれかあ。桜子(にい)、やり方が汚えよな」 「そりゃ桜子兄ちゃんが悪いわ」 欠席裁判で、どうやら遼太郎に有罪判決が下ったらしい。 「でも、出会った瞬間からかあ……そりゃ切ないよなあ」  サナが腕組みして言うと、チーが立ち上がってぱっと手を挙げた。 「はいはいっ! 私、桜子を全力で応援することに決めましたっ!」 「待て、小型肉食獣(ラーテル)。お前が全力で応援すると、それはそれで不安だ」 「ラーテル?」 不思議そうにする桜子に曖昧に笑って、 「いっこ訊くけどさ、その桜子の“好き”ってどんくらいのもんなの?」 サナはそう問い掛けた。  桜子は一瞬困ったが、 「うーん……自分でも、よくわからないんだ。一緒にいると、ことあるごとにドキドキさせられるんだけどねー」 とぼけてサナとは目を合わせずに、 「もしかしたら、記憶が戻ったらハッと我に返るかもしれないし」 そんなふうに言葉をつなげた。  もちろん、本当は自分でも手に負えないくらい、桜子の思いは強い。でもサナとチーがわかってくれたと言っても、自分の本当の気持ちを打ち明ける勇気は、桜子にはまだなかった。 (それに……)  自分でもよくわからない、記憶が戻れば遼太郎への思いが消えるかもしれないというのは、あながち嘘でもない。桜子自身にさえ、自分の気持ちの在り処がわかっていないのだから。  桜子の言葉に、サナは納得したように、心なしかホッとしたように頷いた。 「そっか、そうだよな。いつかは桜子の記憶だって戻るはずだし、その時はまたその時だよな」 「うふぅ、私は戻ってからがむしろ本番だと思うけどなあ?」 チーが茶化したが、桜子本人も、もしかしてそうだったどうしよう、という懸念はないでもない。  失くすはイヤだけど、残っても困る、そんな複雑な気持ちに……  けれど、いつ訪れるかも知れない先の不安より、桜子は、自分のどうしようもない今を、サナとチーがそっと受け入れてくれたことが嬉しかった。 「ゴメンね、サナ、チー。ビックリさせたよね」 「何言ってんだよ。そりゃあ、驚いたは驚いたけどさ」 「カワイイは正義! 桜子なら、お兄ちゃんだってお父さんだって、行け行けGOGOでオトしちゃえばいいんだよ」 「お、おとーさんはちょっと……」  確かに、おとーさんもお兄ちゃんに似てイケオジだけどさあ。  そこで桜子は、二人に向かってモジモジと口ごもりながら言った。 「あの、それでね? このことは、他の人には……」 サナとチーは顔を見合わせ、開けっぴろげな笑顔を見せてくれた。 「わかってるよ、当たり前だ。このことは、三人だけの秘密だよ」 「まあ、桜子兄ちゃんには、私から言ってあげてもいいけどお?」  チーがそう言って、プッと吹き出した。桜子とサナもつられる。 「あははは……それは、いつか自分で言うよう……」 「頑張れ、桜子―」  サナはそう言って、笑いながら、ちょっと真剣な目をした。 「けど、覚えとけよ。アタシとチーは、何があっても桜子の味方だからな」 チーもニヤニヤしながら、それでもしっかりと頷いた。 「応援するぜー」 「あはは……応援されちゃっていいことなのかなあ……」  桜子は、笑って、笑ったからだけじゃなく、また涙が滲んで……  二人に打ち明けて良かった、心からそう思えた。  三人がそうやって笑い合っていると、予鈴のチャイムが鳴った。 「って、弁当―!」 「マジか、昼飯食い損ねてるじゃねーか!」 恋に恋する中学二年(オトシゴロ)、まだまだやっぱり色気より食い気。 「ところでさ……」  結局手付けずの弁当箱を下げて教室へ戻る途中、サナが口を開いた。 「アタシらが教室出る時、アズマの奴、全く事情知らないクセにカットインしてきたよな……?」 「だねー。私達がドア閉めた後、何かガンッて机叩いてたよねー、アズマ……」  あの空気、あの小芝居に、アドリブで飛び入りするか、フツウ……? 「何て言うか、タダモノじゃないよねー、アズマ君」 「ああ……ちょっとスゲえよな、あいつ……」 「私、結構キライじゃないわー、アズマー」  こんだけのことがあって、泣いて笑って、まさか本日の結論“東小橋君はタダモノじゃない”。何だか腑に落ちない三人であった。0d4e28f8-b5ff-4d59-9e74-f574c8efcad6
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