【番外編】

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【番外編】

 桜子、異世界へ行く【其の一】 「じゃ、行って来るわ」  いつもの朝、遼太郎はいつもの呟くような挨拶で、桜子より早く家を出る。しかしその日は桜子が、キッチンに遼太郎の弁当箱の包みを見つけ、 「お兄ちゃん、お弁当忘れてるっ!」 遼太郎を追い掛けて、続いて玄関から飛び出した。そして、立ち止まっていた遼太郎の背中に顔から突っ込んだ。 「イターい! 何なのさ、お兄ちゃん……って……え?」 「おい……どこだ、ここ……?」  家の玄関から出た二人は、いつもの前の通りではなく、異国風の見知らぬ町並みの大通りにいた。振り向くと自分達の家もなく、エキゾチックな露店が立ち並ぶ。 「え……えええええっ?!」 「何だ、これは……?」  そう、そこはまるで、自分達のいる世界とは“別の世界”……言うなれば、“異世界”のようであった。  ******************** 【Sister Cherry!特別編】ce19c7ba-c72a-48ae-9ee7-dcf5851966aa【桜子、異世界へ行く……(1/4)】  ********************  いきなり見知らぬ街に放り出された桜子は、驚いてポカンとしていたが、さすがの遼太郎、いくらか冷静に状況を分析していた。 「これは……もしかして、“異世界転移”というやつなんじゃないか?」 「いせかいてんい?」  聞き慣れない単語に桜子が首を傾げると、 「ああ。漫画とかアニメとかで聞いたことないか? 平凡な高校生が、ある日突然“別の世界”に飛ばされて、冒険に巻き込まれる的な……」 遼太郎が言うのを聞き、桜子が笑い出した。 「あはは。もー、お兄ちゃんたらゲームのし過ぎだよー」 「いや、でも、現に」 桜子はきょろきょろ辺りを見回し、目を見開いた。 「ホントだ!」 「えええ?! ど、どうするの?! どうやったら帰れるの?!」 「知るわけないだろ。下手すりゃ、二度と帰れないかも……」 「そ、そんなのヤだあ!」  大騒ぎする桜子に、遼太郎は腕組みして考え込む。と、兄の頭上にパッとスクリーン画面のようなモノが現れた。 「え、それどうやったの?」 「わからん。けど、たぶんこうやれば(・・・・・)……」 【>>ステータス】 ぴっ。  次の瞬間、ウインドウに文字と数字の羅列が表示された。 【りょうたろう レベル:17     】 【ちから   :47 みのまもり:38】 【すばやさ  :27 かしこさ :52】 【うんのよさ :48 かっこよさ:71】 【さいだいHP:78 あいじょう:78】 【E:がくせいかばん         】 【E:ブレザーのせいふく       】 【E:タングステンのゆびわ      】  桜子が目を丸くした。 「何これ、ゲームの画面みたい」 「まさしくそうらしいな。これがこの世界での、俺の“強さ”というやつなんだろう。高いのか低いのか、全くわからないけど」 「いいな、あたしも自分の見たい!」  桜子が目を輝かせてせっつくので、 「感覚的なもんなんだけど、まず頭の中で“ステータス”って考えてみろ」 「えーと、こうかな? “すてーたす”!」 遼太郎がコツを教えると、桜子もすぐ飲み込んで試してみる。 「出た!」 「どれどれ……」 【さくらこ レベル:13       】 【ちから   :14 みのまもり:11】 【すばやさ  :53 かしこさ :33】 【うんのよさ : 3 かわいさ :84】 【さいだいHP:75 あいじょう:99】9 【E:おべんとうばこ         】 【E:セーラーふく          】 【E:タングステンのゆびわ(のろい) 】 「何かいろいろ低ぇー!」 「学生カバン武器扱いなのか……お、いつのまにか、あの指輪装備してる」 「てか、あたしの“括弧のろい”なんだけど……」 「抜ける?」 「抜けねえ。しかも、武器お弁当箱って何なんだよ……」 「それにしても、お前ステータス偏ってんな」 「“うんのよさ:3”って、ヒドくない? そりゃあ、事故で記憶失くすとか、運が悪いのかもしんないけどさあ」 「それと“あいじょう”どうなってんだ? 表示バグってんじゃねーか」  自分達の能力が数値化されるなんて、現実ではテストの偏差値くらいしかありえない。兄妹は面白がって、互いのステータスを見せ合いっこする。 「あ、そうだ。スキルとか見れねーかな?」 「スキル?」 「特殊能力みたいなもんだ。魔法とか使えたら面白いんだけど……」  遼太郎はウインドウを眺め、ひょいと手で操作を試みる。 【スキル:えいけんじゅん2きゅう】 「戦闘に関係ねえ!」 「へえ、お兄ちゃん英検持ってんだ?」 【スキル:つっこみがするどい】 「もはやスキルでもねえ!」 「あたしは……」 【スキル:おにいちゃんに4ばいダメージ】 「お兄ちゃん、味方だよ?!」 「試しに攻撃してみてもいい?」 【スキル:すきなひとのためならなんでもできる】 「ただの性格じゃねーか!」 「で、でも……」  桜子がセーラーのスカーフのところで指を組み、ぽっと頬を染めて、遼太郎を上目遣いで見た。 「あたし……何でもできるし、何をされても平気だよ……?」 「そ……そうすか……」 遼太郎はいつもながらからかわれ、タジタジとなる。さすがは“かわいさ:84”、“あいじょう”表示バグ…… (何かコイツ、“魅了(チャーム)”のスキルでも持ってんじゃないか……?)  通常攻撃が魅了攻撃で、お兄ちゃん特効攻撃の妹さんは好きですか……?  **********  さて、ステータス画面でキャッキャッと遊んでいた二人だが、にわかに、街がざわつき始めた。  何事かと振り向くと――……  人身獣面、毛むくじゃらの怪物が、こちらへ走って来るところだった。 「お、狼男っ?!」 「ま……町中でモンスター出る設定なのかよっ?」 驚き慌てた桜子はもちろん、遼太郎も咄嗟にどうすべきかわからない。  中盤のモンスター感のある獣人が、レベル17で勝てる奴なのか。そもそも学生カバンで戦えるのか。まず初期装備を整え、スライム辺りと戦わせてもらわないことには、自分の強さの目安が全くわからない。  と、その時、ひとつの影が地面を滑るように走り込んできた。  現れた男は、素早く二人と怪物の間に割って入ると、疾風一閃、ひと太刀で狼男を切り倒した。 「大丈夫か?」 息も乱さず振り返ったのは剣士風の装いをした、遼太郎と同年代くらいの少年だった。目と髪は黒く、手にしているのは日本刀風の剣。若いながら精悍で、いかにも手練れの戦士職という印象がする。  何はともあれ危機を救われ、 「ありがとう、助かったよ」 礼を言った遼太郎に、 「話は後だ、ついて来い」 少年剣士は周囲に油断なく目を配りながら言い、二人を促して歩き出す。遼太郎と桜子は顔を見合わせ、とにかく剣士に従うことにした。  足早に進む背中を追い掛けつつ、 (カッコイイなあ……///) 桜子は怪物を一刀の下にやっつけた少年剣士の凄腕を思い返した。ピンチに颯爽と現れたし、顔だって表情は厳しいけど、よく見るとちょっとカワイイ。 (お兄ちゃんがいなかったら、好きになっちゃってたかも~///)  ワケのわからない状況ながら、桜子さんはちょっと楽しくなってきていた。  **********  少年剣士は細い路地裏へ滑り込むと、二人を先に行かせ、物陰から大通りを窺った。やがて得心したらしく、息をついて路地に引っ込んできた剣士に、 「改めて礼を言うよ。何しろ、ここに来たばかりで右も左もわからない……」 「ああ、そうだろうな」 話し掛けた遼太郎をさえぎり、剣士はこう言った。 「あんたら、異世界転移者だろ? それも転移したての」  さも当たり前のような口ぶりに、遼太郎は驚く。 「なぜ、それを?」 そう訊かれ、剣士は笑った。 「そりゃあ、そんなカッコをしてりゃあな」  確かに、遼太郎と桜子の着ているのはそれぞれの学校の制服だ。剣士の中世西洋(ファンタジー)風の装束からすると、この世界ではさぞ奇異に映るに違いない。  すると剣士は、更に言葉を続けた。 「それに、かく言う俺も、異世界転移者なんだよ」 目を見張った遼太郎に、少年剣士は名乗った。 「ユマ・ビッグスロープ。こっちでは、その名で通っている」 「ようこそ、お二人さん。異世界“カルーシア”へ――……」d509dbb4-08da-4338-ae8e-edfe746b94f7
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