悩める変人、由良ちゃん

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私は、セルフィの返答を待つ。 が、帰ってきたのは意外な言葉だった。 「うーん…それじゃあ叶えられないなぁ」 …え、なんで。 「悩み、叶えてくれるんじゃないの?」 「うん、もちろん!僕、神様見習いだもん!」 じゃあ、なんで。 私がそう尋ねる前に、ただねー、とセルフィが申し訳なさそうに続けた。 「普通の人、ってどんな人?」 「…え?」 「由良ちゃんの思う普通って、何?」 「それは、私みたいな変人じゃなくて、凡人っていうか…」 「それそれ」 え? セルフィが眉をハの字にする。 「その、凡人っていう基準が、分かんないの!平均っていうこと?でもさ、身長とか体重は平均があっても、趣味とか好き嫌いに平均ってないんだよねー」 そういえば、そうだ。 言われてみて、初めて気づいた。 「じゃあ、一つ一つ、趣味はこれにしてほしい、これが好きになりたい、って言えば叶えてくれるの?」 「えーっとねぇ…」 セルフィが顎に手を当てて考え込む。 と、 「ムリ!」 セルフィは手でバッテンを作ってそう言った。 「ごめんね~、やっぱ無理だわー」 あれもだめ、これもだめって。 「このヤブ神様(いしゃ)」 「ひどいッ!」 じゃあ何で無理なのか説明して、と言うと、セルフィは「OKOK」と説明を始めた。 「理由は二つ。一つは、由良ちゃんは僕から見て充分普通な子だから。普通に笑って、泣いて、悩んでるでしょ?そんで、もう一つの理由はねー」 ウインクするセルフィ。 「僕がやりたくないから!」 …は? 拍子抜けした。 「この自己中神」 「さっきにも増してひどいッ!」 だってそうじゃないか。 願い、一つも叶えてくれないじゃん。 「ちょ、ちょっと待ってよぉ!結論を急がないで、ね?焦らない焦らな――」 「うるさい!」 思わず叫ぶ。 私の悩みなんかひとかけらも理解してないくせに、ずけずけ他人の悩みに切り込んで。 私は普通になりたいだけ。 みんなと一緒にワイワイ遊んで、中二の女子らしく過ごしたいだけ。 何で私だけが違うの? 何で私だけが、みんなと同じことができないの? 何で私だけ、みんなのことを理解できないの? 集団の中で異質な存在。 それが私だった。 「僕が神様を目指してるのってさー」 セルフィが口を開く。 「人間が好きだからなんだよ。悪いところとかもひっくるめて、人間っていう生き物が好きなんだぁ、僕!でもさぁ、全人類が全部同じになったら、面白くないじゃん!普通ってそういうことでしょ?」 確かに、そうかもしれない。 でも、独りぼっちがどれだけ寂しいか、コイツは知らないのだ。 それで―――、 「君の考えを当ててみせよう!今、自分が仲間はずれだとか何とか、考えてない?」 「…だから?」 「おっ、アタリ?手応えアリ?やったね!」 ガッツポーズをするセルフィ。 「実際そうなんだから、仕方ないじゃ――」 「うんうん、そういうのってさぁ、」 セルフィがにこりと微笑んで言った。 「思い上がり、って言うんだよね!」 「思い上がり…?」 「うん、そう!もしくは被害妄想?」 想定外の返答に、文句をいう事もできず目を瞬かせる。 「だってさ、君にはホラ、友人いるでしょ?それも、一人じゃなくてたくさん。それに、家族だっているじゃん?君にはたっくさん、君に優しくしてくれる人がいるじゃないか」 ハッと、息をのむ。 そうだ。 私は一人なんかじゃないじゃないか。 言われて初めて気づいた。 一体、どこを見ていたんだろう。 「それに、仲間に入ろうと努力もしてないのに、仲間はずれ?目が節穴にもほどがあるでしょ」 仲間に入ろうと努力…考えたこともなかった。 みんなの話題、例えばオシャレや人気のドラマについて調べるとか、そういうことを私は全然してこなかった。 そうか、自分は思い上がっていたのか。 目から鱗が落ちた気分だった。 「ね?つまり僕は、君の悩みを解決できないってこと」 「そっか…分かった」 私の悩みは、たった今しがた、セルフィがいともアッサリ解決してみせたじゃないか。 おかしなヤツ。 「ありがと、セルフィ。私、頑張ってみる」 「え、何が?うーん、よく分かんないけど頑張れ!応援してる!」 本当、おかしなヤツだ。 「さしあたって、流行りのドラマでも見てみるか。」 「あ!それなら、『二分後の姫君』っていう女性向けのドラマがおススメだよ!あれはヤバい!マジできゅんきゅんするから!僕も仕事終わって帰ったら見るんだ~!」 「へ、へぇ…」 前のめりになって解説するセルフィの勢いに、上体を少し後ろに引いた。 「って、ん?あー!もしかして、もう僕が叶える望み、なくなった!?」 「え?うん」 私の心は晴れ晴れとしていて、清々しい気分だ。悩みなんて、セルフィのおかげで吹き飛んだ。 「のわぁー!しまったぁー!今週の課題(ノルマ)がこなせないよぉ!師匠の鬼!悪魔!あ”―――!!」 セルフィが頭を抱えてなにやら叫んでいる。 ノルマ? 神様見習いの宿題的なヤツかな? まあいい。 「じゃあねセルフィ、きっといい神様になれるよ」 「え、ホント?でも、今週のノルマこなさないと最悪破門なんだよ~!じゃね!」 早口でそういうと、セルフィは「悩んでる子、いねがぁ~!」と叫びながら、窓から飛び立った。
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