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「ちょっと家に帰れなくて。もしお暇だったら慶子さんの所に行かせてもらおうかと」
『帰れない……って、義弟くんとケンカでもした?』
さすが慶子さん。察しがいい。
まぁケンカって訳じゃないけど、律と気まずいのは当たっているので「はい」と答えた。
『鈴もケンカとかするんだね』
慶子さんが驚いた声を上げる。
確かに男の人とケンカすることって滅多にないかもしれない。
でもそれは、私が年上の人ばかりと付き合ってきたからだと思う。どの元彼とも言い合いになることなんてなかった。
「ちょっと嫌なことがありまして」と伝えると、慶子さんは『珍しいね』と驚きつつも、何故か楽しそうに声を弾ませた。
……慶子さん、他人の揉め事とか大好きだもんな。
『うーん、鈴の相手をしてあげたい気持ちはあるんだけどね……今彼氏の家に来ててさ……』
「あ、そうなんですね……」
『また明日ゆっくり話聞くから』と申し訳なさそうにそう告げる慶子さん。
行き場をなくした私は、歩くスピードを弱めた。
「すみませんお忙しい時に。また明日。失礼します」
とりあえず最寄り駅に着いた私は、通話を切って、その辺のベンチに腰掛ける。
ずっと外にいるわけにもいかないし、高校の同級生に電話してみようと思ったけれど、久しぶりに会うのにどすっぴんは恥ずかいし。
それなら漫喫にでも入ろうかと、近くのお店を探すためにスマホの画面をつけると、タイミングよく電話が鳴った。
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