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慶子さんが掛け直してきたのかと思ったけれど、画面に表示された名前を見て、一瞬時が止まった。
「井上さん……」
そう、電話の相手は井上さんだったのだ。
あれから連絡をとっていなかったから、少し気まずい。けれど、お詫びの連絡をしないといけないのは確かだったので、あまり声を聞きたい気分じゃなかったけれど通話ボタンを押した。
「はい……」
『あ、もしもし鈴ちゃん?』
久しぶりに聞く井上さんの声はやっぱり優しくて、頼れるお兄さんって感じで、荒れた私を落ち着かせるには十分だった。
『ごめんね急に。寝てた?……って、今外にいるの?周りが騒がしいけど』
「え、あ、はい」
『そっか、忙しかったならごめんね。どうしても鈴ちゃんの声が聞きたくて』
こんな時でも、井上さんはストレートな言葉を私にくれる。
そうだ、この人はこういう人だった。
律は頭ごなしに井上さんを否定するけれど、井上さんは律と違って大人で落ち着きがあって、私を酷く甘やかしてくれる。
久しぶりに感じる優しさに、涙腺が緩みそうになった。
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