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着いたのは、初めてデートした日の待ち合わせ場所。二度目のデートもここで待ち合わせしていた。ドタキャンしたから会えなかったんだけど。
だから言わなくてもここに来てくれると思った。
キョロキョロと辺りを見渡してみたけど、まだそこに井上さんの姿はなかった。
電車を降りてから早歩きで来たから、少し息が切れる。
ゆっくり呼吸を整えていると、後ろから足音が近付いてきた。
「鈴ちゃん……っ」
振り返るとそこには、パーキングから走って来たのか私より息を切らした井上さんの姿。
びっくりして目をぱちぱちとさせていると、ふ、と笑みを零した井上さんは「会えて嬉しい」とこんな時でも甘い言葉を掛けてくる。
ストレートな台詞にこっちが恥ずかしくなって井上さんを直視出来ずにいると、彼もそんな私を見て恥ずかしくなったのか、照れた顔で頭を掻いた。
「来てくれてありがとう」
「いえ……」
寧ろありがとうは私の方だ。
行くあてがなくて困っていたのだから。
「鈴ちゃん、何か雰囲気違う?」
「え……?」
井上さんにそう言われて一瞬訳が分からなかったけど、私の顔をじっと見ている彼を見てはっと思い出す。
そうだ、私すっぴんだ。
「ご、ごめんなさい。急いでたから……」
「はは。そんな焦らなくても大丈夫だよ。こっちの鈴ちゃんも可愛い」
今が夜で本当に良かった。昼間だったら恥ずかしくて逃げてたかも。
そして井上さんが仏のような人で救われた。
だけど恥ずかしいことにはかわりないので、両手で目元から下の部分を覆うと「隠さなくてもいいのに」と井上さんは笑った。
「えっと……これからどこ行こうか。急いで来たから、何も考えてなかった」
申し訳なさそうにそう零す井上さんに、きゅんとしてしまう。私のために急いでくれたなんて、今の私にはそんな些細なことが嬉しくてたまらなかった。
ふとスマホで時間を確認すると、もう結構な時間になっていた。だから周りの店はほとんど閉まっている。
正直お腹も空いていないし、どすっぴんで店に入るのも気が引ける。
会ったのはいいけれど、これからどうすればいいんだろう。
「あ、じゃあさ、ドライブしようか」
そう言って、手に持っていたキーケースをチラつかせる井上さん。
確かにそれはいい考えだと思い「はい」と食い気味で答えると、井上さんは「嬉しそうだね」と笑った。
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