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「俺の事、優しいって思ってくれてるんだ?」
私の顔を覗き込むように視線を絡める井上さん。
あまりの近さに、どきりと心臓が跳ねた。
気付けば辺りにはカップルばっかり。
手を繋いで歩く人もいれば、私達のようにベンチに座っていたり、中にはキスをしている人もいる。
そんな中での至近距離。
変に意識して、目が泳いでしまう。
「…出会った時から、優しい方だと思ってました」
照れくさくて俯きながら答えると、井上さんは、ははっと声を上げながら再び姿勢を戻して背もたれにもたれ掛かった。
「そっか。優しいと思ってもらえてたなら、嬉しいや」
「寧ろ優しさしか感じないですよ」
「……」
本音を零すと、返ってきたのは何故か沈黙。
もしかして、優しいしか言えないのかよって呆れてるのかと思って恐る恐る視線を井上さんに向ける。
しかし彼は、呆れるどころか酷く優しい目で私を見ていた。
「……まだ言うつもりなかったんだけどな」
「え?」
「鈴ちゃんはいつも可愛いけど、今日は一段と可愛いから、我慢出来そうにないや」
独り言のようにそう呟いた井上さんは、突然真剣な眼差しを向けてくる。
思わずゴクリと唾を飲み込んだのは、何となく、これから彼が何を伝えようとしているのか分かってしまったから。
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