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それから数日間、毎日夜遅くまで残業した。
帰宅しても、帰りにコンビニで買った夕食を食べて、シャワーを浴びたらすぐに寝るだけ。
いつか過労でぶっ倒れるんじゃないかと自分で心配になるけど、祐真さんのことを考えないようにするにはこうするしかなかった。
皆が帰ってからの残業時間はとにかく仕事が捗った。
まぁ決まって主任も残っていたけど、寡黙な彼との間に会話なんて一切ない。そのお陰で仕事に集中することが出来た。
寧ろ私ひとりで残るより、彼がいてくれたことで安心感があったのだと思う。
やっぱり夜にひとりでオフィスにいるのは気味が悪いから。
もしかすると、主任もそれを分かってわざわざ残ってくれていたのかも。だとすると、有難いような、申し訳ないような。
……いや、あんな無愛想な男が、そこまで気を回してくれるわけない。この数日間、本当に挨拶以外の言葉を一言も交わさなかったし。
仕事が早い男だと思っていたけど、もしかすると以前からこうして皆が帰った後も黙々と仕事を進めていただけなのかもしれない。
「お先に失礼します」
「……つかれ」
この日も私が先に席を立つと、いつもと同じような返事が返ってきた。
一瞬でもこっちに視線を移せばいいのに。
どうせ見られてないのは分かっているけど、一応ぺこりと頭を下げて、事務所を出ようとした。──その時だった。
「……あー、なに」
不意に、気だるそうな男の声が耳に入った。
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