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「あーーー気持ち悪」
今日も取引先を回って会社に戻る頃には、日は完璧に沈んでしまっていた。
最後の一件は社長が厄介で、二時間捕まっていただけでもしんどいのに永遠とセクハラ攻撃を受けたせいで疲れがいつもの数倍だった。
思わず独り言を呟いてしまうくらいには気持ち悪い。
セクハラ発言だけならまだ軽く受け流せるけど、他の社員にバレないようにさり気なく触れてくるあたり、慣れてる証拠だ。
恐らく被害者は私だけじゃないだろう。
得意先じゃなかったら契約を切られてもいいから適当にあしらうのに。ほんと最悪。
私なんのためにこんなに仕事頑張ってんだろ。
……あ、祐真さんを忘れるためか。
「お疲れ様でーーす」
事務所に入り、やっぱり定位置にいる人物に向かって声をかける。
いつもは語尾を伸ばしたりなんてしないけど、もうやけくそだ。
案の定、こんな私にびっくりしたのか、一条主任は目を丸くして固まっていた。
あ、またレアな主任だ。と思ったのも束の間、すぐにいつもの彼に戻り「…つかれ」と、小さな声が私の耳に届いた。
こんな時、明るく話しかけてくれる優しい上司だったら良かったのに。と、小さくため息を吐いたその時、突然部屋中に着信音が鳴り響いて、それが自分のスマホだと気付いた私は急いで鞄から取り出した。
そして画面に表示されている名前を見て、息を飲んだ。
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