恋の仕方、忘れました

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今、一番見たくない名前。 今、一番聞いてはいけない声。 なんてタイミングが悪いんだろう。弱ってる時に彼の声を聞いてしまったら、恐らく私はまたあの日を思い出す。 “祐真さん”の文字を見つめたまま、電話に出ることを躊躇っていると、不意に「成海?」と声を掛けられて、びっくりした勢いで通話ボタンを押してしまった。 声を掛けてきたのは勿論主任で、きっとなかなか電話に出ない私を不思議に思ったのだろう。 慌てて電話を切ろうとしたけど、そんなことをしたら余計主任に怪しまれる。 詮索してくるような人ではないと思うけど、電話相手が取引先だと思われても嫌なので、しぶしぶスマホを耳に押し当てた。 「……もしもし」 『あ、希子ちゃん久しぶり。最近遊びに来ないから心配になって』 久しぶりに聞く声に、胸がぎゅっと締め付けられるのが分かった。 『そういえば仕事忙しいんだっけ。ちゃんと休んでる?遠慮せずにいつでもおいでよ』 あんな事があったのに、祐真さんはいつも通りだ。 彼の声は今日も優しくて、思わず愚痴を零してしまいそうになる。 そう、私は祐真さんのこういうところに惚れた。 私を存分に甘やかしてくれるところ。 最初はお姉ちゃんという彼女の妹だから優しくしてくれてるのだと思ってた。あの事件が起きるまでは。 あれ以来、もしかすると祐真さんは私のことを女としてずっと見てたのかもなんて期待してしまっている。だから私も……。はぁ、もうダメだ。 忘れたいのに、なんで忘れさせてくれないんだろう。 よりによってどうして今日なの。 この数日間、祐真さんを忘れるために努力したことが全て水の泡じゃないか。
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