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暫く涙は止まらなかった。鼻をすすり、たまに嗚咽を漏らす私の横で、主任はずっと黙ったまま離れなかった。
まさか主任の前でこんなに取り乱すと思ってなくて、段々と落ち着きを取り戻すと、今度は猛烈な恥ずかしさが襲ってくる。
きっと目は真っ赤に腫れてるし、化粧はボロボロに崩れているだろう。
覆ったハンカチを外せないままでいると、主任が先に口を開いた。
「落ち着いたか?」
「…………はい、お陰様で」
「よし、じゃあ飲みに行くか」
「…………はい?」
「どうせ今日はもう仕事出来ないだろ。付き合えよ」
予想外の誘いに、思わず顔を上げ彼を見る。
私の顔が相当酷かったのか、主任が笑いを堪えているのが分かった。
そんな主任を見て、腹が立つのと同時に、恐らく初めて見る笑顔にドキッとした。
これだからイケメンは狡い。
「み、見ないでくださいよ!」
「永遠に顔見ずに飲めってか」
「まだ飲みに行くなんて言ってないです!行きますけど!」
「……お前意外にアホなんだな」
「アホですよ!アホだから私は…………自害します」
急に祐真さんを、あの日の出来事を思い出して、机に頭を打ち付けるように突っ伏した。
主任は何が面白かったのか、鼻で笑ったかと思うと「ほら、行くぞ」と席を立ち歩き出す。
こうなったらしこたま飲んでやる。
握っていたハンカチで顔をゴシゴシ拭いて、鞄を肩にかけると主任に続くように事務所を後にした。
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