恋の仕方、忘れました

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いい感じに酔いが回ってきたら、もう話すのが楽しくて。 取引先以外の誰かとこうやって喋るのも久しぶりだったと気付く。 主任はさすが営業マンだけあって口が上手い。若い彼が昇進する理由も頷ける。 聞き上手だし、話の引き出しも多いし、それでいて周りへの気遣いもパーフェクト。 店員への態度は勿論のこと、私のグラスが空になりかけたらさり気なくメニューを渡してくれる。 そりゃ彼女もいるはずだ。……そういえば彼女がいるのに、こうして二人で食事に来ても良かったんだろうか。 まぁどう見ても私達は釣り合ってないし、主任にとって私は所詮ただの部下。別に気にする事はないか。 だって主任の彼女はきっと器が大きくて美人で、主任のように完璧な女性に決まってる。 いちいちこんなことで彼を責めたりはしないだろう。 一体どこに主任みたいな優良物件転がっているのか教えてほしい。 そしたら私は、あんな過ちを犯すことなんてなかったかもしれないのに───。 「お前何で最近あんな残業してる?そんな仕事溜まってんのか」 お猪口を口に付けたまま目の前の綺麗な顔を食い入るように見ていると、主任は怪訝な目を向けながらも質問してくる内容は私のことを心配してくれていて、 「…違うんです。実は……」 気付けばあの日のことを全て話していた。 お酒のせいっていうのもあるけど、主任なら引かずに聞いてくれる気がしたから。 もしかしたら「へー」とか言って、適当に流されるかもしれないけど、別にそれでも良かった。 主任が周りに言いふらすような人じゃないのは何となく分かっていたから。 私はきっと、ずっと誰かに聞いてほしかったんだと思う。 思いの外落ち着いてあの日のことを話してる自分に、私自身が一番驚いた。
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