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案の定、話し終えて自傷気味に笑う私を見て主任は何も言わない。
「最低ですよね」と、残りの熱燗を一気に口に含んで、おかわりいいですかと尋ねようとした時、主任がゆっくり口を開いた。
「なあ、お前本当にそいつが好きなの?」
「……え?」
「そんなクズみたいな男が好きなのかって聞いてんだよ」
祐真さんをクズ呼ばわりする目の前の男は、意外にも真剣な表情だった。
「クズって……悪いのは私だし」
「いや、どう考えてもその男がクズだろ」
「お姉ちゃんの彼氏を悪く言うのやめてくださいよ」
「……分かってないようだからハッキリ言うけど」
主任は手に持っていたジョッキを、ガンッと音をたてながらテーブルに置いて、射抜くような目で私を見る。
あ、長い説教が始まるのかもしれない。
熱燗頼んでおけばよかったと、少し後悔した。
「ちょっとは冷静に考えろ。お前は自分がしたことにしか目を向けてないけど、相手がしたのは普通に浮気だろ」
「……」
「しかも彼女の妹。普通の人間がすることではない」
「……でも、」
「実は姉じゃなくて、元々自分を好いてくれていたのかも。とか思ってんじゃないだろうな」
「ま……さか」
「自惚れんなよ。お前がアホなのは分かったけど目ぇ覚ませ。その男、お前どころかお前のお姉さんのことすら好きじゃない可能性あるぞ」
「そ、そんなこと、」
「なぁ、そいつがまともな人間じゃないことくらい、普段のお前ならすぐ分かるだろ」
貶されてるようで、実は褒められてる?
どっちにしろ、酔ってる頭でもすぐ理解出来るくらいには主任の言ってる事は全て正しい気がした。
恋は盲目っていうけど、まさにこれのことだ。
でもやっぱり、お姉ちゃんの彼氏を悪く思うことなんて出来ないし、祐真さんがお姉ちゃんを想っていないとは思えない。
だって二人の付き合いは長いし、私は傍でずっと見てきたんだから。
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