恋の仕方、忘れました

68/122
前へ
/188ページ
次へ
「でもなぁ…」 どうして主任はこんなに食い下がるのか。まぁ、何となくは予想してるけど。 「主任、心配し過ぎじゃないですか?」 「夜だし普通心配するだろ」 「その心配って、あれですか。私が今その辺で声掛けられたら平気でほいほいついて行きそう、みたいな」 「………それは思ってない」 「今の間はなんですか。やっぱり主任は私のこと軽い女だと思ってますよね」 「そうは言ってないだろ。ただ酔うと押しに弱いイメージはあるけど」 「その通りですよ」 「自分でも認めてんじゃねーか。だったら早く…」 「でも大丈夫です!」 「あのなぁ…」 私がいくら言っても主任は聞く耳を持たない。 私のことどれだけ軽いと思ってるんだろう。まぁ、確かに軽いけど。 営業の仕事しておきながら、こんなに押しに弱いなんて自分でも笑える。 結局主任の心配って、妹みたいな、そんな感じなんだろうな。 …やっぱりこの気持ちを主任に伝えてはいけないんだと、再認識してしまった。 もう本当にひとりになりたくて、最終手段に出ることにした。 言いたくなかったけど、あれを言うしかないみたいだ。 「主任、それより何か買って帰らないといけないんじゃないですか」 「え?………あぁ、忘れてた」 「また怒られますよ」 「電話聞こえてたのか。お前よく覚えてたな」 そりゃ覚えてますよ。相手の声までは聞こえなかったけど、目の前で楽しそうに話されたら、意識しないようにしたって聞き耳立てちゃうし、勝手に嫉妬までしちゃって、そんなの忘れられるわけないじゃん。 これからその人のところに帰るって分かってて、部屋に誘えるわけないんだよ。 「私のことはいいから、早く帰ってあげてください」
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4918人が本棚に入れています
本棚に追加