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地下に繋がる階段を降りきると、洋館の入口風の重厚な扉が待っていた。
円伽がスタッフに予約番号を告げると、満面の笑みでようこそカヴェルヌへ、と観音開きのドアを開けて誘われる。
入ってすぐに、佑一郎も円伽も目だけを覆うヴェネチアンマスクを渡された。
どうやら今日はこれを付けていろ、というイベントらしい。
薄暗い店内には音楽がかなりのボリュームで流れている。
ソファ席、カウンターには男女のペアや、一人できている男性客や女性同士で酒を飲んでいる客がうっすらと見える。ところどころに空間を区切るベルベットのカーテンが天井から下がっていた。
まずはカウンターに腰掛け、酒を頼んだ。
円伽はウォッカベースのカクテルを飲み、佑一郎はビールを飲んだ。
円伽が背の高く、日本人離れした彫りの深い顔立ちのバーテンダーと話している間に、佑一郎は店の中を見渡した。
暗くてよく見えないが、思っていたよりも人が多い。ほとんどが二人連れ。稀にカウンターの端で一人で飲んでいる男もいたりするが、早速二人連れの女たちが近づいていく。
そこで円伽と来ていたことを思い出し、佑一郎は視線を戻した。
満を持してプレイルームに移動すると、さっきまで聞こえなかった淫靡な効果音や悩ましい声だったりが、佑一郎の耳に飛び込んできた。
そんな喘ぎ声をBGMに酒が回った円伽は、佑一郎の首に腕を巻き付かせた。
円伽は早速佑一郎のスラックスのベルトを外す。シャワーを浴びてないなどお構いなしに、引っ張り出した佑一郎のそこを躊躇なく口に含む。
「・・・・・っん・・・」
最初は押され気味だった佑一郎も、気がつけば無心に彼女を抱いていた。
背中を向けた円伽の身体を愛撫しながら、佑一郎は違うことを考え始めていた。
それは、先日買った本「メロウ」の中のワンシーン。
主人公の渉は、妻の暁子の兄、令司を愛してしまったことで思い悩みながら、ひっそりと自慰をする。
それはまさに、学生の頃の佑一郎が自分の性的指向に気付いた場面だった。
佑一郎は瞼を閉じて、今触れている女の身体を忘れようとする。
しかし円伽の甘ったるい喘ぎ声が、その都度現実に引き戻す。
穿つことだけに集中しようと思った時、店内の照明の色が変わった。
すると、席を区切っていたカーテンがするすると上がり、それぞれの相手と楽しんでいる様が露わになった。薄暗い上にマスクを付けているから気にならないのか、そうなっても誰も気にする様子はなかった。
そもそもここは、そのための場所。誰も怯んだりしないのだ。
佑一郎は半ばやけくそで、そのまま円伽を抱き続けた。
すると、向かい側で絡み合う二人に目が吸い寄せられた。
佑一郎たちと彼らの間には、ガラス板が一枚。
円伽に気付かれないように、佑一郎は喉を上下させた。
男同士のカップルだった。こういう場所なら珍しくはない。
佑一郎から見えるのは、後ろから貫かれながら、前を扱かれている男の方だった。ガラスに手をついて立ち、背後の男の腰のグラインドに耐えている。
ヴェネチアンマスクにかかる長めの前髪が、貫かれるリズムに合わせて揺れている。半分開いた目はうつろで、遠慮気味にかすれた喘ぎ声を上げていた。
右の乳首に、小さなゴールドのリングピアス。
佑一郎は瞼を閉じ、自分が触れている女の身体と抱かれる男を無意識のうちにリンクさせた。
祐一郎が触れているのは、男の乳首。
金色のリングを軽く引っ張ってやれば、口を開いて吐息を漏らす。
腰を持って深く突き上げれば、喉から絞り出したような声で鳴く。
柔らかそうな髪が目の前で揺れ、白い背中はしなって反り返る。しなやかに指に吸いつく肌と、飛び散る汗。
軽く目を開けてみる。
真向かいで貫かれる男と、目が合った。
どちらにもそんな余裕などないはずなのに、ふたりは静止した。
世界が止まったような不思議な感覚。
が、次の瞬間、彼は背後の男に深く突き上げられ、大きく仰け反った。
ぞくぞくと身体の奥からこみ上げてきた感覚に、佑一郎は一気に飲み込まれた。
佑一郎の前で抱かれる男と、円伽を抱く佑一郎はほとんど同時に達した。
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