50.日彦

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50.日彦

佑一郎(ゆういちろう)の住むマンションに着く頃には、すっかり日が暮れていた。 部屋に入るやいなや、佑一郎は日彦(はるひこ)を強く抱きしめた。 日彦は腕を佑一郎の首に回した。 佑一郎の方が少し上背がある。 日彦は佑一郎に隙間なく寄り添い、佑一郎はその細い腰を引き寄せた。 着やせするのか、佑一郎はしっかりと筋肉がついていて、強く抱きしめられると息苦しいくらいだった。 長い時間がかかった。 初めて古書店で出会った佑一郎は、たくさんの客の中で、とりたてて目立つわけではなかった。 ただ、「メロウ」を手に取っただけ。 その本の存在を、自分以外の人間が認識するのを見て、日彦は不思議な感覚を覚えたのだ。 佑一郎の舌が日彦の舌と絡み合い、解け、また絡み合う。うっすらと目を開けて、佑一郎は日彦を見ていた。 自分よりもいくつも年下のこの佑一郎は、逢う度に違う顔を見せた。 優しい顔、大胆な顔、不安気な顔、頼もしい顔・・・回を重ねる度に、日彦は彼に惹かれていった。 佑一郎の手によって上半身の服を取り払われ、彼のベッドの上に横たえられた。 胸のピアスは、初めて佑一郎と繋がった夜、気づいたら外れていた。何も付いていないその傷痕を、佑一郎の熱い舌がなぞる。 「・・・あ・・・ぁ・・・」 服を来たままの佑一郎の身体が日彦に覆い被さる。 脚に触れる佑一郎の中心が、硬く熱いのが布地を通しても感じることが出来た。 日彦のベルトの金具をもどかしそうにはずし、佑一郎は自分と同じように熱くなった日彦の中心に、下着の上から口づける。 堪えられず溢れる蜜。腰をよじって逃げようとすると、佑一郎の手に捕らえられる。 佑一郎の唇と擦れる布地の感触が相まって、日彦は息を吐き出した。 「脱が・・・せて・・・っ・・・」 身につけているものを全て失った日彦の肌を、佑一郎はくまなく愛撫した。 初めて繋がった時の急くような様子はない。代わりに佑一郎は、ひとつひとつの感触を確かめるようにそれは丁寧に愛した。 唾液と蜜が混ざり合い、淫靡な音を立てる。佑一郎の口の中で、日彦の牡は小刻みに痙攣した。佑一郎の指は同時に後孔を優しくくつろげ、波が返すように小さな快感が次第に大きくなりながら、日彦のもとに押し寄せる。 喉がひりつき、息が漏れ出していた。 限界が来たのを見計らって、佑一郎は日彦の両脚を掴んだ。 先端が触れただけで、とろけそうになる。狭い道をこじ開けて、ぬぷりと佑一郎が進入する。 その硬さ、熱、形が日彦を変えていく。 「強迫的性行動症」に支配された、からからに乾いた身体ではない。水が沸き上がる泉のように、日彦の心の奥深くから佑一郎に対しての愛情と、純粋な欲情が溢れ出していた。 他人と身体を繋げることに何の意味もなかった。 むしろ、その都度仁井田(にいだ)の顔、(つづり)の顔が浮かび、情欲に溺れることは罪だと思っていた。 エクスタシーと共に吐き出される精液は、汚れたもの、としか思えなかった。 佑一郎によって与えられる愛情には、日彦が病魔と戦ってきた理不尽な人生全てを再構築する力があった。 今、日彦は、ただ幸せだった。 「日彦さん・・・・・」 奥まで隙間なく埋めて、佑一郎は日彦を呼んだ。日彦の目には、男の顔をした佑一郎が見える。 優しく、守ってくれる佑一郎とはまた違う、生命力に溢れた精悍な顔。 日彦は、吐息混じりに言った。 「・・・出会えて・・・良かった・・・」 佑一郎は日彦の唇に、指先で触れた。愛おしそうに唇をなぞり、それから長いキスをした。 唇が離れると佑一郎は眉根を寄せて、さらに深くまで日彦を穿った。 「あ・・・っぁ・・・ぁああああっ・・・」
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