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窓際の椅子に腰を下ろしたまま、気怠げに返事をするその声は流れる水のように涼やかで、薄衣に隠された面はさぞ麗しかろうと想像できる。妹が艶やかな山桜なら、姉は凛とした椿の花を思わせた。
「ずいぶんと心配しているようね」
サクヤは少し言い淀んだが、言葉を選ぶようにしながら続けた。
「私は存じております。姉上の心にどなたが住んでいらっしゃるか…」
「もう良いのです」
遮るように言うと、立ち上がる。
「私の心は決まっております。心配はいりません」
「姉上、あの方はどうなさるのです!ニニギさまに嫁して、忘れてしまわれるのですか!」
「サクヤ、いらっしゃい」
妹を手招き、細くなった月を見上げた。
「ご覧なさい、糸のような月。明日は闇夜になります。篝火が焚かれ、その中で婚礼の式が行われるでしょう。今夜あなたの白い肌はさぞ美しく炎に照らされるでしょう。ですが…」
薄衣の下で、姉は少し笑ったようだった。
「私はそうはならない」
「姉上…?」
サクヤは姉の真意を計りかねて、問い返した。
だが、姉はそれ以上は何も語ろうとはしなかった。
「さあ、お行きなさい。私もあなたを祝うために式に参ります」
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