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〜序〜
花嫁はこれから婚礼の式を迎える。昨夜は既に実の妹が嫁いでいる。この時代、姉妹が揃って同じ男性に嫁ぐことは珍しくなかった。どちらかが出産時の事故で亡くなったとしても、残った姉妹が代わって子供を育て、妻としての務めを果たす。子を成すことがまず女性の大切な役目の一つであった。
それは十分に理解している。
妹が美しく装って、昨夜夫になる男性の元へ歩み寄るのも見ていた。
妹は夫に気に入られ、その想いに応えようと決心していた。一足先に嫁ぐことを報告しに来た彼女は、輝いていた。だが、美しい瞳には深い憂いがあった。
「姉上まで巻き込んでしまって…。国に残っていらっしゃれば、父上の後を継いで、国を治めるのは姉上でしたのに…」
妹の名はコノハナサクヤヒメ。名前の通り香り立つような美貌の若き山の国の姫であった。その美しさは遠くの国にも知れ渡るほどだった。
昨夜、婚礼の前に挨拶に来たコノハナサクヤは、姉に目をやり、意を決したように言った。
「姉上、婚儀を取りやめて、お国に帰られた方がよろしいのでは?」
「何を言っているの?サクヤ」
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